第28章 Prisoner!〈栗花落 菖蒲〉
「出ろ」
スマホをポケットに閉まって車から降りた。見渡す限り全てが緑で、その中に場違いな荘厳な屋敷が建っている。思い出したくもない、お婆様の家だ。
「ついてこい」
ここで逆らっても無策な私にはどうしようもないので、大人しくついていった。嫌に成る程堅牢なガード、この忌々しい匂い。全てが嫌だ。
「来たのですね、菖蒲」
『ただいま帰りました、お婆様』
「貴方は昔から従順で助かります。さぁ、荷物を置いて着替えなさい」
事勿れ主義が仇となったか。どうやら私はお婆様に協力的だと思われているようだ。何も言わない事は肯定だと思われても仕方ないか。
『はい』
ワンピースを脱いで白装束に着替える。これから何をされるかが分かっているからこそ怖い。こんな時太陽が隣にいてくれたら。
『はぁ…』
吐く息が震えた。太陽の事も、雪音の事も、家族の事も、全部忘れたくなんかない。愛してるって言ってくれた事、キスした事、初めて出会って、恋人になった事、今でも鮮明に覚えてる。
「菖蒲、来なさい」
『はい』
動揺を悟られないように毅然とした態度で返事をした。泣いてはダメ。覚悟を決めたのだから、これは私が怠惰を働いてきた罪だ。受けるべき罰だ。
「そこに座っているだけで良いのです。できますね」
『はい』
これから、改竄されるんだ。目を瞑って最後に太陽の顔が瞼の裏に浮かんだ。大好きだ。愛してる。貴方に会えて、本当に良かった。日常が遠くなっていくことが怖い。みんなに会えないのも怖い。
『たい…よ…』
意識が暗くなっていく。もう、終わりだ。
目を覚ますと、見慣れた座敷の布団に寝かせられていた。足首には枷が付けられ、横を向くと格子がついている。どうやら私は座敷牢に閉じ込められているようだった。何があったのか、あまり良く思い出せない。どうやら私はこの家で禁忌を犯したようだ。その罰として許嫁と直ぐに婚姻を結び子を産む道具になるようだ。なんの禁忌を犯したかは全くもって心当たりがない。
「起きろ」
格子の小さい扉が開けられて食事が入れられる。卵粥と漬物、それからりんごが盛られていた。割と良心的。
「直ぐに総帥が来る。食べたら姿勢を正して待っていろ」
鎖が重くて、一歩を踏み出すにも相当な体力が必要だ。ダンス部で鍛えていて良かった。運動してなかったら一発KOだ。