第26章 Sports festival!〈栗花落 菖蒲〉
別に何もかもを諦めている訳じゃなかった。寧ろ闘士に燃えていたのかもしれない。
『何かね、本当に…消えちゃいそうだったから。どうにかしたいって思ったし、多分どこかに魅かれてたから、太陽の所にほぼ毎日通ってた』
「そっか」
『今になって思えば、ちょっとだけ…悔しい。かな」
「悔しい?」
『あの時。太陽と一緒に行って…そのまま太陽が試合に出た時、確かに焦ってた。どうしようって。でも、同時に悔しかった。私に言わなかったのは、もしかしたらそんなに信用してなかったからなのかもしれないって』
「違うよ…!あれは…」
『言えば反対されるって思ったからでしょ?そんでもって既に太陽のおじさんやおばさんにも反対されてた』
「うっ…」
『で、私に言えば、あの長い問答が繰り返されると踏んで、言わなかったんでしょ』
「あ、菖蒲って…エスパー…?」
『太陽が分かりやすいの』
雷門に居た時には、なんか余り読めない人と思われていたらしいけど、こんなに分かりやすいのになぁ、と当時は思ったものだ。
『寂しかったんだよ。残された方の気持ちも…考えて』
「もう、しないよ…」
『次やったら愛想尽かす』
「え、えぇ…それはちょっと」
『もうしないって言ったのに、そこで詰まらないでよ』
「冗談」
にっこりといつもの笑顔で笑う。愛想尽かすって言ったけど、尽かせるかどうかは別の問題だ。
『じゃあ、行ってらっしゃい。もうそろそろ集合かかるでしょ?』
「うん」
『応援してるから』
「あ、菖蒲タンマ」
『ん?』
油断大敵、とはこの事だ。一瞬の内に唇を奪われる。
「充電完了!行ってくる!」
『…ばか』
背中を見送りながら、小さく呟いた。きっと聞こえてはいない。元気に走る姿を見て、ちょっと嬉しくなったのは秘密。
「あやめー!借り物競走見に行こう!」
『雪音』
「何か借り物競走って言ってもあんまりイメージ湧かないな〜。小学校の時とかもそんなのやった事なかったし」
『確かに…何かうちの学校特別だったよね』
「あんなつまんないのやるより借りる系のレースした方が楽しそうなのにね」
『確かに。私もやってみたい』
「菖蒲も出てみれば良かったのに」
『私、そんなに走るの速くないから』
運動については可もなく不可もなく、と言った所だろうか。まぁ、体力テストで言えばB止まりといった所だ。Aランクになった事は一度もない。