第26章 Sports festival!〈栗花落 菖蒲〉
『これから雪音の試合観に行くの。一緒に行く?』
「うん。剣城君も呼んできた方が良い?」
『多分、剣城君なら自分で来るよ。雪音の事、大切に思ってるから』
「そっか」
雪音の声がする方へ走った。そうだ、太陽に飲み物買っておいたんだっけ。
『太陽、はい』
「ん?」
『お疲れ様のお飲み物』
「ありがとう」
『ドッジボールって小学校以来、全然やってないね』
「中学校って球技が殆どだったし、特に今の時代はサッカーに力を入れてるから」
『だからこそ、こうやって子供みたいにはしゃげる競技に、自然に興味がいっちゃうのかもね』
「かもね」
会場に着くと、他の競技とは明らかに違う空気が流れていた。確かに先輩達の表現は的確だ。対戦クラスの目は、本当に狩猟者のそれだけ。最早鷹の様に鋭い眼差しである。
「それではこれから1年3組対2年5組の試合を始めます」
雪音は早速外野様のギプスを着て、準備万端そうだ。
「始め!」
それからはもう、やられっぱなしだった。別にどんどん当てられていった訳では無いのだが、ボールが相手側にあるばかりでこちら側に攻撃のチャンスが回ってこない。
「あ、危ない!」
『…え…?』
「菖蒲!」
反射的に目を瞑った。目の前に暗い影。
『あ…』
「大丈夫?菖蒲」
太陽の手の中にはドッジボールがすっぽりと収まっていた。
『ありがと…』
知らない内に大きくなっていた背中に、少しドキッとした。そっか。自覚していた様で、していなかった。私、ずっと太陽に守られていた。
「怖かった?」
『ううん。大丈夫、ありがとう。太陽にも怪我が無くて良かった』
結局、先輩達にやられてしまったが、怪我人もいなくて、楽しくできたらしいので、良かったとする。
『あれ、この後って…』
「借り物競走」
『太陽出るんだっけ』
「そう」
『頑張って。多分、そんな変なもの入ってないだろうし、穏便に終わるように願ってる』
「別に」
『ん?』
「穏便に終わらなくても、良いけど」
『えぇ…喧嘩みたいになるよりは良いよ』
太陽が何を願っているのかは分からないけど。でも、彼女として、彼がやりたい様に…生きたい様に生きているのなら、それで良い。彼は、ただでさえ幼い頃から束縛を迫られていたのだから。
「菖蒲は死にそうな僕の隣にいてくれた」
『うん』
「それはどうして?」
『消えちゃいそうだったから』