第25章 Spinning!〈遠坂 雪音〉
『それと…』
続けそうになって口を噤んだ。言って良いのだろうか…。分からない。傷付けるかもしれない。
「遠慮はするなよ」
私の心情を読んだ様に剣城が言った。それでも怖かった。「いらない子」じゃないと虚勢を張るのに精一杯な私が、こんな言葉を紡ぐのが不安で不安で仕方がない。
『聞きたい、事がある。今まで私が胸に痞えていた事』
楽しい雰囲気にしようと思ったけど、私にはやっぱり苦手。取り繕うのは、もうしたくない。
『剣城は私と前の私が一緒だと思ってると思うけど、私の中では…違う。私と彼女は…相容れない存在…だと思う』
きっと、どうしたって無理な事なんだと思う。彼女の事も好きである彼には…私という存在を分かって欲しい。
『剣城も分かっている通り、私は彼女の事が嫌い。あれは多分、元の私が歪んだ存在。だから…何もかもが萎縮している。剣城も、少しはそんな彼女の可能性を広げたいと思ったから好きになった。そうでしょ?』
剣城が静かに頷いた。そうだろうなとは…思った。けど、複雑な気持ちになる。
『一番聞きたいのは…』
本当は聞きたくない。憶病な私が変わるには、これしかない。あの子を超えるには、多分これしかないの。
『ううん、確かめたいだけ。私の事は…気にせず答えて』
「分かった」
『私の事…あの子よりも、好きって言える?』
馬鹿な質問だとは思う。でも、私は…誰かに必要とされなきゃ生きていけない。
「ああ」
案外即答した事に驚いた。嘘を吐いている様には見えない。
「多分、何度でもお前を好きになる」
『私も、そんな気がしてた』
メンヘラみたいな質問をしたのに、動じずに返してくれる。
『いつか…元の私を好きになれたら…良いな』
「いつかはきっと好きになる」
『そう…だよね』
「私」を認められるようになる。それが私の目標だ。いつかきっと。
『ねぇ、帰ろうか』
「ああ」
もう一度、下駄の音を鳴らして帰り道を歩く。自然に手は、剣城の手と繋がっていた。
PRRRR
何だろう、こんな時間に…。
『出て良い?』
「ああ」
『もしもし、雪音です。はい、ヒロトさん?どうかしましたか?』
[驚かないで聞いて欲しい]
『何ですか?』
[君のお姉さんが、保護された]
『え…』
[明日、面会出来るそうだけど…どうする?]
姉が…保護…?どっかでぶっ倒れた、とか?