第25章 Spinning!〈遠坂 雪音〉
『好き』
花火の音が鳴った瞬間。耳元に、少し小さめな声で言ってやった。聞こえたかどうか分からないけど。
「ずっと…待ってた」
『待たせて、ごめん。今迄、意地張ってたの。でも、気付いちゃった。好きなんだもん。だいすk…ん…』
あぁ…リップ取れちゃう、なんて場違いな感想を抱いた。
「雪音。好きだ。俺と…付き合ってほしい」
『うん』
きっと、剣城に何度でも恋するんだろうなと思った。だって、あんなに自分から避けていたのに、しまいにはこうして…。
「もう一度、していいか」
『…うん』
唇が、ふんわりと重なった。時が止まったみたい。横には、花火があって…私達を半身だけ明るく照らした。
『リップ…取れちゃった』
「なら、今の内にりんご飴食べれば良いだろ」
『そう…だけど…剣城は?』
「別に…」
『じゃあ…一緒に食べよ。小さいけど…量は多いし』
包みを取って、カプリと齧り付いた。飴のパリってしたものと、りんごの食感。これが…りんご飴。
『はい、あと半分あげる』
「ああ」
やっぱり男の子だなぁ。何か買ってきた方が良いかも。りんご飴だけだとなんか物足りない。
『ねぇ、それ食べ終わったら、なんか買いに行こうよ。焼きそばとか…お好み焼きとか、食べたい』
「行くか」
『えっ…速い』
「男子だからな」
男子の食べる速さはどうやらとても速い様で…あ、でも天馬も速いから一緒か…。
「そういえば…北大路の方はどうなった」
『何か、裏の方で違法の取り引きやってたみたい。ヒロトさん達が掴んでくれた。だから、結局解散になって、私も自由の身。と言っても、高校生だからまだまだ大変だけど』
「そうか…」
『剣城も、協力してくれたんでしょ?ありがとね』
「あ、あぁ…」
なんか凄い遠い目をしてるんだけど…またヒロトさんとなんかあったのかな。ヒロトさん、剣城の事となると目が笑ってないからなぁ。
『あ、そうだ。私も…部活入る事にした』
「何部に入るんだ?」
『家庭科部。裁縫とか…料理とかそんな感じ』
「意外だな」
『元々そういうのが好きだっていうのもあるんだけど…やっぱり秋さんのお手伝いとかちゃんとできる様になりたいし』
自分で色々勉強して、ちゃんと家事を一人でできる様になりたい。菖蒲みたいに、テキパキ出来る人になりたい。
『家庭科部は、比較的早く終わるから…教室で待ってる』