第25章 Spinning!〈遠坂 雪音〉
『初めて、かも。夏祭り』
「そうなのか?」
『全然行った事ない。けど…また初めてを経験できて嬉しい』
前に行った水族館も。本当は…剣城と行けて嬉しかった。
「また、行くか」
『機会があったらね』
期待してると思われたくなくて、隠してしまった。良い加減、素直になりたい。けど…素直になれば前の自分になってしまったみたいで、ちょっと嫌だ。
『凄い…』
「行くぞ」
『うん』
やっぱり凄い混み合っている。今日が最終日でしかも休日だから仕方ないのかもしれない。
『ねぇ』
「?」
『りんご飴、食べたい』
「並ぶか」
『うん』
お祭りに行ったら、りんご飴は絶対食べたかった。それからお好み焼きに焼きそば、たこ焼きとか唐揚げ、たくさん…。
『あ、あのさ。花火、一緒に見ない?』
「構わない」
そっか、一緒に見られるんだ。そこで…伝えられたらいいな。今迄の事と、この想いも。
『おじさん、小さいりんご飴ひとつ』
「あいよ。300円ね」
300円渡して、小さい方のりんご飴を取った。赤くて、艶々してて。きっと美味しいんだろうな。
「食べないのか?」
『リップ取れちゃうから、後で食べる』
頑張ってグラデーションにしたんだもん。此処で取れてしまうのはちょっと、いやかなり惜しい。
『混んできたね』
「そうだな」
すれ違いの人にぶつかって、謝っていたらいつの間にか一人になっていた。剣城が見当たらない。取り敢えず、人混みから外れよう。それから電話をかけてみる。
PRRRR…
「雪音⁉︎今何処だ⁉︎」
『い、今…人混みから外れてる…あ、剣城見えた』
「は?」
『ちょっと待って。そこで止まって、そのまま右に抜けて』
あ、ちゃんと抜けてる。
『そのまま斜面登って来て』
「見つけた。切るぞ」
凄い心配そうな顔で此方に向かってくる。
「良かった…」
『ごめん、ぶつかっちゃって謝ってたらいつの間にか…逸れてて』
「いや、俺もちゃんと見ていれば良かった」
『そ、そうだ。もうすぐ花火大会始まるし…此処で見て行こうよ。此処ならほら、誰も居ないし。特等席』
隣をぽんぽんと手で叩いて、剣城を座らせると、同時に最初の花火が打ち上がった。
『綺麗…』
横を見たら、剣城が呆然と花火を見つめている。チャンスだよね。今なら。
「⁉︎」
距離を詰めた。肩にこてんと頭を預ける。