第24章 Luster!〈栗花落 菖蒲〉£
「どうして?」
『あんまり、他には話さないでね。自分でも一応トラウマっていうか…』
「ごめん。無理して話さなくて良いよ」
『ううん。太陽には知っておいて欲しい。いずれ…何かあった時のためにも』
実家の事は、話しておくべきだろう。厄介な実家の事を。
『私の実家は…とある村の凄い偉い家っていうか…村の諸々についての決定権があるんだけど、その全ての決定権を握っているのが、お婆様な訳』
「現代でもそんな所あるんだね」
『私達家族は、お婆様には逆らえない。どれだけ酷い事言われたり、させられたりしても、何も言わずに受け入れるしかない』
「それって…」
『体のいい人形って所。昔は…蓮華もよくお婆様に楯突いてたけど…最近は諦めてきたみたい』
「あの蓮華ちゃんが?」
『やっぱり許せないみたいで。家族が悪く言われるの』
蓮華はああ見えて沸点は低い。普段はかなり気を使っているが、お婆様の事になると途端にキレやすくなる。
『だから…なんかあったら…多分お婆様の事だと思ってよ』
「分かった」
『太陽には知っていて欲しかったから』
「そっか」
『なんかあって帰ってこなかったら…忘れてね。私の事』
「え…」
『そうじゃなきゃ、ずっと太陽が一人になる。私はそんな風に縛り付けたくない』
「分かってないな。菖蒲は」
太陽がぐいぐいと近づいてくる。
「僕には、菖蒲しか見えてないんだよ。今更、他の人なんて見れない」
『っ…』
「だから、もう二度と「忘れて」なんて言わないで」
徐に、唇が重なった。好き、好きだ。私は、きっとこの想いを忘れる事はないだろう。この先、何があっても。
『だって私はっ…』
「それでも。僕はきっとそれから菖蒲以外を好きになる事はないよ」
『やだ』
「やだって…」
こんなに優しい太陽が、私を忘れないのだとしたら、それこそ罪悪感が勝ってしまいそうで。
「菖蒲の事、大好きだから。忘れたくない」
『あぁ…もう』
太陽の胸の辺りに縋った。なんで太陽はいつもこんなに温かくて、優しくて、私を好きでいてくれるのか。
「菖蒲がなんと言おうと忘れないから」
『なんか、別にそんな雰囲気じゃないのに、変な感じ』
「だって、本当の事だから」
『も、もう寝る』
何か嫌な想像をしてしまった。引き裂かれる様子を想像してしまって…少し寂しくなったから。
「おやすみ…菖蒲。愛してる」