第23章 Relaxation！〈遠坂 雪音〉

「そう…だったのか」
『だから、ごめん。今迄、意固地になって避けて。馬鹿みたいって笑って良いよ。自分でも…嫌なんだ。こんな自分が、大嫌いなんだ』

そう、嫌いだ。全部、全部全部全部。時に私なんていなければと自己嫌悪に陥る事だってある。

『多分、こっちが本当の私…なんだと思う』
「それは…栗花落から聞いた」
『菖蒲から？』
「ああ。元のお前の人格は、恐らく何もかもを抑制されて生きて来た為に捻じ曲げられてしまった人格だと」

なんとなく、そんな気はしていた。まぁ、その捻じ曲げられた人格に戻ろうとは思えないけれども。

『だから…言いたい事は最初と同じ。元の人格の私が好きなら…諦めた方がね…良いよ』

多分、人生で初めて大きな嘘を吐いた。本当は…諦めて欲しくない。気付いていた。この気持ちにも。でも、この気持ちは「いけない物」だと抑え込んだ。それが…正解。そうでしょう？

『ごめん。今日はもう…帰る』

私は馬鹿だった。今凄く…泣きたい気分だった。一人になりたくて、必死に走った。駄目、好きになっては、駄目。彼は、前の私を愛している。

『っ…！』

木枯らし荘にも戻りたく無くて、結局菖蒲の家に来てしまった。

ピンポーン

なんだかその響きが虚しく感じてしまって、何となく下を向いた。

「雪音？どうしたの？」

そのまま菖蒲に抱きついた。驚きつつも優しく背中に手を回してくれる。

「取り敢えず、中に入って良いよ。今日は誰も居ないから」

菖蒲の言葉に頷いて、菖蒲の部屋に入った。今迄の悩みと、今日の事を全部ぶちまけた。

「ねぇ、雪音。顔上げて」
『…？』

パシン

その音と同時に頬に強烈な痛みが走った。

「馬鹿！私も、剣城君も「雪音」が大好きなんだよ！どんな雪音でも、大好きなの！ずっと側に居たいって思ってる！」
『…』
「信じられないなら、逆に考えてみて。もし私が雪音みたいに記憶全部ぶっ飛んだとして、それで雪音は私と絶交する？」
『…しない』
「そういう事なんだよ。剣城君、大好きなんだよ。雪音の事。本当は誰よりも雪音の事心配してた。記憶なくなったとしても、雪音の事大好きだから、ずっと頑張ってたじゃん。あんたに振り向いて欲しかったから」
『…うん』
「雪音はどうなの？本当の気持ちに嘘ついてない？」

“好き”

その言葉を口に出して良いものか、少し悩んでしまった。