第23章 Relaxation!〈遠坂 雪音〉
彼氏でもないのに払わせるなんて出来ないし、水族館のチケットって結構高かったりするから申し訳なくなる。例えそれが剣城であっても、ね。
『う、うわ…人多い…』
逸れちゃう…そう思った時だった。一回り大きい手が私の腕を掴んだ。
「大丈夫か」
『あ、ありがと』
そのまま何事もなかったかの様に手を繋ぎ始める。こ、これって振り解いた方が良かったりする?で、でも逸れちゃうしな…。
『やっと人混み抜けた…』
「休日だから仕方ないかもしれないな」
『ねぇ!見て!魚一杯…!』
水槽におでこをくっつけながら泳いでいる魚達を見ていた。色とりどりの綺麗な魚が優遊と泳いでいる。見た事無い魚ばかりでワクワクが募っていく。
カシャ
『は?』
剣城が自分のスマホで写真を撮り始めた。おい、肖像権。
「顔が幼稚園児だったから」
『失敬な!』
クックックと喉を鳴らして笑っている。幼稚園児って!私そんなにはしゃいでた?
『つ、次!次行こう!』
でもやっぱり魚達はキラキラしていた。初めてだったから、あちこちに行きたくなってしまう。
『良いなぁ』
「行けば良いだろ」
『だって剣城に笑われるから』
「笑わない」
『さっき幼稚園児って言った癖に』
普通に話せている自分に吃驚する。今となっては…毛嫌いする程では無い…と思う。普通、位なのかな。良くわからない。
『ねぇ。お腹空いた。ご飯食べよ』
「そうだな」
時刻はもう丁度良い時間である。お腹の音が鳴るというアクシデントが起こる前に食べたい。
『あ、あのさ』
「?」
『今日は…連れて来てくれて…ありがと。楽しかった…』
御礼は言わないと、人間性的にね。でも、本当に嬉しかったから。初めて、こういう家族で行く様な施設に行けて。それが誰であれ、嬉しい事には変わりない。
「気にするな」
『気にする。今度、お礼はするから』
そのまま頼んだハンバーグ定食に手を付けた。
「次、行きたい所あるのか?」
『折角海が近くにあるんだし、ゆっくりして行こうよ』
「そうだな」
私も、多分君に話したい事がある。きっと、凄く大事な事。
『ご馳走様でした』
律儀に手を合わせて席を立った。先に食べ終わっていた剣城も私に合わせて席を立った。
『ねぇ。少し座ろうよ』
もう、逃げたくないと思った。今迄は、ただ逃げていただけだったのだ。