第22章 Flower!〈栗花落 菖蒲〉
連れてこられたのは、よくクラスの女子が「映える」とかって言って騒いでたタピオカのお店。だからと言ってタピオカが嫌いな訳ではなく、人並みに飲む方だとは思う。
『太陽ってどっからそういう情報見つけて来るの?』
「気になる?」
『いや、凄いなと思って』
情報の出所も気になるが、聞いた所で私が「ふーん」で終わりそうなので、遠慮しておくことにした。
「買ってくる」
『後でお金返す』
「良いよ。こういうのは男が持つっていう自負があるから」
どういう自負なんだ、ということは黙っておいて、素直に頷いて太陽の帰りを待った。
「お待たせ」
『お疲れ』
太陽からタピオカドリンクを受け取り、そのままチューっと飲み干した。
「そういえば、菖蒲は部活どうするの?」
『私は、ダンス部に入ろうかなって思ってる』
「だろうなとは思ったけど」
『新しい事に、良い加減挑戦してみようと思って』
「良い加減?」
ずっと逃げて来たのだ。平坦な日常に甘えて、何もして来なかった自分を変えてみたいと思った。というのも、体験入部に行った時にダンス部の方々が輝いていたからだと思うけど。
『太陽には、見守っていてほしいんだ。私が一歩踏み出す所を』
「分かった」
『…よし、帰ろう』
「え、今のタイミングで?」
『うん。それと夕飯は?材料何か買っていった方が良い?』
「ううん。あるもので作って良いって」
『了解』
飲み干したタピオカの容器を近くのごみ箱に太陽のものと一緒に捨てて歩き出した。
『美味しかった』
「でしょ?」
『そうだ。さっきの話。すっごい下らないんだけど』
「気になる」
『バレンタインのチョコ、トラック一台分貰ったって言ってたでしょ?』
「あー…うん」
『その中に、私のも埋もれてるんじゃないかなと…』
「そんな訳ないでしょ」
若干怒りを含んでいらっしゃるのが怖いんですが…。
「菖蒲は僕の事をそんな薄情な奴だと思ったの?」
『だ、だから言ったじゃん…!思い直したんです!』
「なら良いや!」
モテる男は凄いなぁ。此奴多分顔だけじゃない。性格面でもモテてるぞ。というか無自覚にモテてるだろうよ!
『何作ろうかな』
「冷蔵庫の材料によるよね」
『じゃあ確かめる為にも早く帰ろう』
「そうだね」
今回は私から、太陽の手を握ってみた。凄く驚いていたけど…これは私の小さな独占欲なのだ。