第22章 Flower!〈栗花落 菖蒲〉
『私はそう思っただけ』
「多分それは」
“菖蒲だから”
耳に囁く声が一気に私の頬を赤くさせた。
『…!』
「ドキってした?」
こういう時だけ素直になれない。太陽はきっと、女の子を分かっているのだ。どういう事が好きだとか、嫌いだとか。私がこういう事されるのが「好き」だとちゃんと分かっている。
『…した』
「ね、キスしたい」
建物の影に回って、誰にも見られない所でキスをした。手はずっと恋人繋ぎのまま。息が続かない。
『んん…!ふ、むぅ…』
「好きだよ、菖蒲」
チャラ男が軽く言う様な言い方でなく、本当に大切なものを愛でる様な言い方。だからどんどん好きになっていく。
『私も…好き…太陽…』
服の裾をギュッと握った。不安…といえば頷くかもしれない。太陽は俗に言えばモテるタイプなのだろう。一時期バレンタインのチョコはトラック一台分貰ったと聞く。私のも…中に埋もれていたのかもと考えれば、少し背筋が冷えた。
「菖蒲…?」
『ちょ、ちょっと不安になっただけ…!』
「差し支えないなら、話してほしいんだけど」
『もしかしたら太陽に失礼になるかもしれない』
「良いよ」
馬鹿みたい。重い女って思われそう。というかいっその事吹っ切れて私は重い女ですって看板掲げて立ってやろうか。
『や、やっぱり良い。ちょっと思い直した』
さっきの疑いの行動は、逆に考えれば太陽の事を信じていないという行為に等しい。疑っているままでは…きっと誰も私を信用しない。
「大丈夫?」
『うん。なんかさ。太陽と一緒にいると、ネガティブな思考からポジティブ思考に変わっちゃうから不思議なんだ』
「そ、そう?」
『後でちゃんと話すよ。此処まで大きな幸せを受けてると…逆に不安になっちゃうんだ。本当にこんなに幸せで良いのかなって。だからちょっと迷っただけなの』
雪音にも会えなくて、少し寂しかったのかもしれない。やっぱり親友に一週間も会えないとなると悲しくもなるものだ。ただ、境遇が境遇故に、仕方ないとは思う。
「ちょっと寄り道して帰ろっか」
『うん』
こういう時の太陽が本当に凄いと思う。というのも、私女子なんですが、女子よりも女子の好みを分かっているんですよ、この人。偶に私女じゃないんじゃないかと思い始める時ありますもん。
「今日は此処!」
『本当、凄すぎると思う。もうそれしか出ない、逆に』