第3章 Everyday!〈栗花落 菖蒲〉
さっきはあんなに楽しそうにリフティングしてたのに。
『太陽、はい』
「これって…クッキー⁉︎」
『偶々…余っただけ』
「そっか…!食べて良い?」
『す、好きにすれば』
「美味しい!」
いつの間に開けていたのか、もうクッキーを食べ始めている。でも、笑顔で食べてくれている姿を見ると作って良かったと思えた。
「菖蒲も一つ食べなよ。ほら、あーん」
『ば、ばかっ…!わ、私は良いよ…!』
「ほらほら」
『ちょ、むぐっ…』
「ね、美味しいでしょ」
此奴…躊躇というものを知らないのか…!思春期の男女ってこういうのは恥ずかしがるもんじゃないの…?
「菖蒲は料理上手なんだね」
『まぁ、毎日料理してれば自然にこうなるでしょ…』
「ねぇ、また持ってきてよ!」
『気が向いたらね』
一人の時にでも作ってあげるかと思いつつ、鞄の中からウエットティッシュを取り出した。
『ほら、口の周りに付いてる』
「ん、ありがとう」
こういう所は本当に子供っぽいんだよなぁ。
「最初は天河原中か…」
『ん?』
「ホーリーロードの予選の一回戦、雷門は天河原と当たるんだ」
『へぇ…』
ホーリーロード。確か中学サッカー界の頂点を決める大会。昔はフットボールフロンティアっていう名前だったらしいけど。
『太陽は本当に分かりやすいよね』
ソワソワしているのか、ちょっとうずうずしている様にも見える。サッカーしたいのか…。
「えっ…何が?」
『そういう所。まぁ…嫌いじゃないけど』
そう言いながら窓を閉めた。もうそろそろ看護師さんも見回りに来る時間だろう。そろそろお暇しなければ。
「もう行くの?」
『うん。明日はもっと遅くなると思うから…宜しく』
「そっか…」
『別に、そんな落ち込む事でも無いでしょ。会えなくなるわけでも無いんだから』
「うん…!」
看護師さんは此奴の顔とか性格好きだって言ってたけど、私は正直どうでも良い。だって、私が思ってる以上に彼は大きなモノを抱えてる。
『太陽』
「ん?」
『これ、あげる』
自分のメールアドレスを書いた髪を太陽に手渡した。
「これって…」
『ひ、暇な時にでも有効活用すれば…?』
「ありがとう、菖蒲!」
そのまま振り返らずに病室を出た。早く帰ってご飯を作らなければ。
「あれ、菖蒲〜!まだいたの?」
『ね、姉さん…!』
「ココって…雨宮君…?」