第21章 Heat!〈遠坂 雪音〉
サクッとしたパイ生地に中に甘いアップルコンポート。アップルパイって、アニメとかだと殊更美味しそうに見えるんだよね。何でなんだろう。
『とっても美味しいです』
「そう、良かったわ。後は私の仕事だから、雪音ちゃんは好きに過ごしていて良いわよ」
『ありがとうございます』
今の時刻は10時過ぎ。そろそろ部屋に戻って勉強でも始めるか。
『ふぁ〜』
別に眠い訳でも無いけど、体力使ったから酸素を必要としてるのかも。中1の時の事故から、また身体が弱くなってしまったから、そんなに激しく身体は動かせない。持久走とかは遠慮させて貰っている。
『スマホ…使ってて良いのかな…。充電ケーブルも無いし…』
スマホは持ってきているが…GPSは確か付けられてない。私が今迄信用を得てきた結果とも言えるだろう。従順な子犬様に思われているのかもしれない。それもそれで嫌な気分になるが。
「雪音ちゃん、そろそろお昼ご飯にしましょう」
『はい』
少しだけ手を付けられたけど、やっぱり暇だしな…。何もやることないって、なんか嫌だな。
「何かこういう時って、凄く暇なのよね」
『そうなんですよね…。勉強も確かにしなくちゃいけないんですけど』
「そうね…私も何か娯楽になりそうな物を持っていれば良かったんだけど…」
『あ、何か小説とか持ってませんか』
「何冊か持ってるけど、読んでみる?」
『はい!』
本があれば、少しはマシになるだろう。
「それにしても、随分髪の毛が長いのね〜」
『切るタイミングを逃したというか…でも、外に出られる様になったら毛先揃えて貰おうかなとは思ってます』
「そうね。それが良いと思うわ」
横に垂れている髪を少し取りながら、何となく笑った。長い髪は少し憧れだった。スーパーロングという響きに憧れて伸ばし続けてきた髪。自在にアレンジできるのが好きで、ツインテールにしたり、ハーフアップにしたり結構遊んでいる。
「そういえば、剣城君とは仲が良いのね!初めて会ったのだと思っていたから、びっくりだわ」
『あー…あはは…。昔、雷門と帝国で合同文化祭を行った時に、偶々会ったんですよ』
「そうだったのね」
まさか、元彼とかいう複雑な事情を語れる筈もなく。
『ご馳走様でした』
「お粗末様でした。お風呂は4時から7時までが女子の時間よ。その間ならどれだけ入っても大丈夫だから」