第21章 Heat!〈遠坂 雪音〉
天馬が元気に木枯らし荘を出ていった。私も新学期早々勉強に遅れる訳には行かない。でも、一日中という訳にも行かないので、秋さんの手伝いもさせて頂こう。
『秋さん。何かお手伝い出来る事はありますか?』
「そうね…外の仕事は私がやるから…食器洗いと後で大浴場の掃除を頼めるかしら」
『分かりました』
食器洗いとかは最近やっていなかったけど、普通に出来る。瑠璃さん達の手伝いを良くやっていたし、家事は一般的に出来る筈だ。
『食器洗い終わりました』
「それじゃあ、大浴場の掃除の仕方を教えるわね」
確かに、普通のお風呂とは勝手が違うだろうし、これだけ大きければ掃除もさぞかし大変だろう。
『此処の大浴場って…』
「お察しの通り、女性と男性が入る時間を区切っているわ。だけど、昨日はたまたま最後に入った人が掃除してくれていたみたいで、今日雪音ちゃんが入ったお風呂は一番風呂だから、安心してね」
『そ、そうでしたか』
お湯が綺麗だったから全然そんな事気にして無かった…。まあ、大浴場なんてそんな物だろう。
「床と浴槽内をこれで洗ってね」
お馴染みの緑のデッキブラシを渡された。何だか楽しそうかも。
「後は、この洗剤は床に、こっちの洗剤は浴槽に使ってね」
『分かりました』
大浴場と言っても、旅館にある様な大きさでは無いので、すんなり終わりそうだ。
『ふぅ…』
デッキブラシでゴシゴシと磨いていく。これを秋さん一人でやっているかと思うと、本当に凄いなと思う。お日さま園でもこんな仕事はあったけど、皆で協力してやってたから、そんなに苦しいとは思っていなかった。
「そろそろ終わりそうかしら」
『はい。もうすぐ終わります』
「凄く手際が良いのね!」
『昔、こういう事よくやっていて…』
「そうだったの!瑠璃ちゃんの所で?」
『はい』
瑠璃さんは色んな事を教えてくれたと同時に、母の様な存在だった。短い間だったのに、ずっと前から一緒にいる様な。でもその感覚はきっと間違っていない。記憶を失う前から、私はお日さま園に居たのだから。
「そろそろお茶にしましょうか。紅茶を入れてあるわ」
『はい』
リビングに戻ると、美味しそうなアップルパイの匂いが充満していた。
「林檎が悪くなる前に、アップルパイにしてみたの。良かったらどうぞ」
『ありがとうございます!』
「沢山食べてね」