第21章 Heat!〈遠坂 雪音〉
夢から覚醒し始めて、首元に母の様なひんやりとした手の感覚が移動しているのが分かった。
『ん…おかあ…さん…』
ゆっくりと目を開いていく。そこには、見覚えのあるツンツン頭が見えた。
「大丈夫か」
ああ…そうだ。お母さんは居ない。しかも目の前にいるのは私が嫌いで嫌いで仕方の無い人。
『ん…秋さんは…』
「下に居るよ。呼んでくる?」
『ううん、いい』
ああ、天馬もいるのか…。取り敢えず今何時かだけ聞きたい。
『今何時…?』
「6時半」
『嘘…』
そんなに寝てたんだ…。というか、2人ともいつから居たんだよ…。
「秋姉がお粥作ってくれてるから、すぐ来ると思うよ」
『うん、ありがと…』
のっそりと起き上がって、辺りを見回してみる。
『菖蒲は…?』
「お前の事は心配だが、監視の事も踏まえて暫くは来ないそうだ」
『そっか…』
「監視?」
『ああ。私、今家から狙われてんの。だから此処に避難してきたって訳』
まだガンガンする頭を押さえながら、簡潔に話した。一週間で瑠璃さん達が何とかしてくれるそうなので、私は外に出ない。出ても迷惑にしかならないし。まさかこんな初日から高熱出すとは思わなかったけど。
『まぁ…何はともあれ、来てくれてありがと。菖蒲には心配かけてごめんって伝えておいて』
「分かった」
「じゃあ、俺もそろそろ部屋戻るね」
という事は剣城も帰るのか…。
「寂しいのか?」
『ば、ばか…!違う!』
そんな筈…無い。絶対無い。こんな奴に寂しいなんて。
「また明日来る」
『い、良いよ。別に…』
立ち上がる前に目を手で覆い隠された。やっぱり、少しひんやりしてる。
『ちょ、ちょっと何…?』
額に柔らかい感覚が当たるのと同時にリップ音が部屋に鳴り響く。
「好きだ」
いつも直球に伝えてくるのは…如何してなんだろう。如何して、記憶が無くて、好意が向かないと分かっていて…そんなに私に関わろうとするの。
『剣城の気持ちには…応えるつもりは無いよ』
「それでも良い」
『私が別な人を好きになったら?』
「そうなる前に、振り向かせる」
きっと私は意地でもあんたに振り向かない。だって怖いから。私の嫌いな私が好きだった人を、仮にも今の私が好きになってしまったら。昔の私を認めてしまう様な気がして。
『絶対に…嫌』
「…」
そのまま何も言わずに部屋から出ていった。