第21章 Heat!〈遠坂 雪音〉
ーー夢
「本当に、良いの?」
『良いんです。お願いです。この写真で、過去に連れて行ってもらえませんか、フェイ君』
「…分かった。その代わり、昔の人達に話しかけたりしちゃ駄目だよ」
『はい』
「他に連れて行きたい人はいる?出来れば人数は少ない方が良いんだけど…」
剣城君を…連れて行くべきだろうか…。そうなったら…私は…。
「雪音」
『つ、剣城君…』
「どうかしたのか?」
「僕は、剣城君は一緒に行くべきだと思う」
『フェイ君…』
「どういう事だ」
『過去に行きたいんです。私の家族がバラバラになる前の』
「それに俺も連れて行くか行かないかって事か」
『剣城君は…どうしたいですか』
「俺も…連れて行ってくれ」
剣城君の目に迷いは無かった。剣城君がそれ程に私に関わろうとしているのが分かる。いつまでも、壁を作っている訳には行かない。
「分かった。じゃあ準備は良い?」
『はい。お願いします』
どうしても、母をこの目で見てみたくて、フェイ君に頼んだ。昔私と姉と母が遊んでいた時、父が撮った写真をアーティファクトとしてその時代にタイムジャンプした。
「此処が…」
『私達が…昔遊んでいた公園です。姉と…母、そして父がいます』
皆幸せそうに笑っていた。これから地獄になるとも知らずに。それでも優しそうな母の顔は…きっともう忘れない。
「雪乃ちゃん、ほら、花冠あげるわ」
「ママー!私も欲しい!」
「じゃあ、雪音も一緒に作りましょう」
「私も作るー!」
「あら、それじゃあ一つ余ってしまうわ」
「じゃあママにプレゼントする!パパにも!」
「ええ。そうね」
暖かそう。他人の様にそう思った。こんな昔の事、覚えていなかったけど。それでも…こんな時代が有ったんだと、少し嬉しくなった。
『…』
「あれが…」
『懐かしい…とは思えないですけど…暖かいって思えました。初めて、こんなにっ…』
涙が止まらない。どれだけ拭っても、滝の様に次から次へと湧き出てくる。私は、本当の暖かみ知りたかったんだ。だからこんなに安心してる。
「お前は、泣いて良い」
どうして、剣城君は私の事を知ろうとしてくれるの?同情?それとも…また別の何か?私を好きだと言ってくれたのは、どうして何だろう。何処に…私の事を好きになれる要素があるんだろう。ずっとそう思ってきた。でも。
『そう…ですね…!』
今はまだ。