第21章 Heat!〈遠坂 雪音〉
「雪音ー!」
天馬の声が聞こえる。身体が重くて持ち上がらない。
『てん…ま…』
「雪音。大丈夫?」
喉から声を絞り出す様に、私は続けた。
『だい、じょ…ぶ…』
「大丈夫じゃないよ!うわっ…あっつい!」
ああ…そうだ。多分、私…熱があるんだ。こんな風に熱を出したのは…いつぶりだろう。中2以前の記憶はよく分からない。
「秋姉!雪音が大変なんだ!」
天馬の良く通る声が頭に響く。暫くしてやってきた秋さんに、体温計を脇に入れられて、測ってみると39.5℃となっていた。
「凄い熱だわ…」
『私は…大丈夫です…』
「取り敢えず市販の薬で様子を見ましょう。天馬はもう学校行った方が良いわ。外で剣城君も待っているでしょう?」
「でも…」
「雪音ちゃんは私が見るわ。だから大丈夫」
「分かった」
目の前が歪む。上手く力が入れられない。でも、天馬が遠ざかっていくのは何となく分かった。
「起き上がれそうかしら」
『…すみません…』
「良いのよ。それじゃあ、ちょっと待ってね…」
秋さんがゆっくり起こしてくれて、ぶらつく私の体を支えてくれている。
「お粥を作ったんだけど、食べられそう?」
『…はい』
意識が保てない。食事しているのに、凄く辛い。面倒見てもらってるのに…こんな事になるなんて。
「お腹一杯?」
『はい…』
「そう。無理しないでね。薬を飲んで、寝ていましょう?」
『…』
頷いて、秋さんにまた寝せてもらった。そして冷えピタが静かに私のおでこに貼られて、少しホッとする。
「何かあったら、そうね。電話で呼んで貰う方が早いかも。登録しても良いかしら」
『はい』
きっと私が起き上がるのもやっとだという事を見越して言ってくれたのだろう。スマホを秋さんに渡して、登録してもらった。
「これで大丈夫ね。何かあったら電話してね。すぐに駆けつけるから」
『ありがとう…ございます』
重たい瞼に抗えなくて、静かに瞳を閉じた。秋さんのひんやりとした手が、どうしてだか心地良くて。もう一度、あの頃に戻れたら良いのに。あれ…あの頃って…いつなんだろう。
「お休みなさい。雪音ちゃん」
ああ、お母さんみたい。お母さんに…会いたい。名前も分からない貴方に…どうしたら会える…?どうしたら…私を見てくれる?お姉ちゃんにも…会いたい。皆に…会いたいよ…。独りにしないで…。