第20章 Ripple!〈栗花落 菖蒲〉
頬を撫でながら、優しい声色で伝えてくれる。
「多分ね。相手が雨宮君じゃなかったら、ママは絶対反対してた」
だろうなって思う。素性もしれない奴の家に泊まりに行かせるなんて、私でも嫌だ。でも、太陽とは中1からの付き合いで、親同士も仲良いし、何ならお父さんと太陽のお母さんは同級生だったらしいし。互いによく知っているのだろう。
「今日、菖蒲が泊まりに行く事を許可したのは、菖蒲の日頃の行動と、パパとママが雨宮さんのお家と仲良しだから。というか、互いに理解があるから。それを忘れないで、菖蒲」
『分かった。肝に銘じておく』
「我が子ながら本当律儀っ…!」
『?』
「なんでもな〜い!週末、楽しんできてね!」
『楽しむ…のかな?』
よく分からないけど…二人が許可してくれたのは、本当に奇跡だと思う。
「菖蒲が正直に話してくれてママ嬉しい〜!」
『うわっ…ちょっと…』
お母さんのラベンダーの匂い。昔から嗅いでいて、凄く落ち着く。
「さて、ご飯食べよっか」
『うん』
久し振りに平日に家族四人で夕食を食べた。こんな事って滅多にないから、結構驚いてる。
「ご馳走様ー!」
美味しそうに食べてくれた姿を見て、少し安心した。もう大分料理は慣れたけど、やっぱり心配なものは心配である。
〈泊まりの件、大丈夫だって〉
〈分かった!楽しみにしてる〉
思えば、彼氏の家に行くのはこれが二回目だ。一回目はまぁ…経緯は思い出したくないかな。あれはあれで凄い怖かった。
ピピピピ
電話の着信音が鳴る。画面を見ると太陽と表示されていた。
『も、もしもし』
「あ、菖蒲」
『どうしたの?』
「なんか、週末にも会えるって思ったら浮かれて、声聞きたくなっちゃった」
少し、嬉しい。そう思うと同時に、顔が赤くなるのがわかる。太陽って…こんなに積極的だっけ…?
「菖蒲、今顔赤くなってるでしょ」
『なっ…』
「分かるよ。3年も一緒に居るんだから」
何で、と言おうと思ったら言葉に詰まった挙句、予測されてまた照れる様な発言をされるという不覚。
『なんか、太陽には敵わないかも』
「えっ…嘘!」
『冗談。でも、すぐ友達と仲良く出来るのは凄いと思う』
「菖蒲も出来そうだけど」
『私は…ずっと雪音の隣に居たから…今更友達の作り方とか、あんまりよく分からない」
『あー…』
雪音が私の唯一だと思う。