第19章 Turbulence!〈遠坂 雪音〉
どうすれば、自分を保っていられる?
「雪音ちゃん。お待たせ」
奥の方から息を切らせて瑠璃さんがやってきた。懐かしい、それでいて暖かい。
『わ、私…』
「うん、大丈夫。私は此処にいる」
髪を撫でてくれるのが大好きで、記憶を失う前からきっと好きだったんだろうな、とは思う。でも、今の方が好き。
『最近…あの人に婚約者を紹介…されて』
「うん」
『来月には、式を挙げるから…今月で高校も中退させるって…!』
「そんな手を使ってきたんだ…。ヒロト君…私達もそろそろ手を打ち始めないと…!」
「そうだね」
「雪音ちゃん。今迄辛い想いさせてごめんね。絶対に今週中にはなんとかしてみせるから、それまで待っていて欲しいの」
『分かり…ました…でも、戻ったら…!』
「?」
『戻ったら…彼奴、私の事触ってくるし…その…』
嫌だ、戻りたく無い。ずっと此処にいたい。暖かいこの場所に居たい。
「あ、そうだ!」
『?』
「ちょっと待っててね」
瑠璃さんは急いだ様子で立ち上がって、何処かへ行ってしまった。それにしても…みっともない所を見られてしまった…。
『わ、笑えば!馬鹿みたいでしょ!あんなに強気に振る舞っておいて、結局弱いとか…』
「笑わない。お前は馬鹿なんかじゃない」
優しいなぁ…。前の私も、こんな所に惚れたのかな。いいや、絆されてはダメだ。一人で、これからも…。
「雪音ちゃん。私の知り合いの所、部屋空いてるから、一週間そこで過ごしてみるのはどうかな。情報は漏れない様にこっちから操作する。それと、可能なら一週間学校を休んでそこに居て欲しい」
『そ、それはまぁ…良いですけど…』
「うん、そう言う事で、剣城君。雪音ちゃんの護衛役、宜しく」
「はい」
『ちょっと!なんでそんなあっさりと…!』
「言わなくても、分かっているだろ。お前なら」
『…』
私の事が…好きだから?それだけで、そんな風にあっさりと引き受ける訳?皮肉ね。私はあんたなんかの事、覚えてないのに。
「それじゃ、木枯らし荘って知ってる?そこまで雪音ちゃんを送って行ってあげて欲しいな」
「分かりました」
『ありがとう…ございました。ヒロトさん、瑠璃さん』
「行くか」
『え、あ、うん』
確かに、木枯らし荘というところでひっそり暮らしていけるのなら、それもそれで良いのかもしれない。
『…ありがと』
「気にしなくていい」