第19章 Turbulence!〈遠坂 雪音〉
剣城の腕を引いて、手伝う事を必死に伝えた。
「お、おい…」
『ご、ごめん!嫌なら…良い。帰る』
「いや、願ったり叶ったりだ」
『真顔で変な事言わないでよ!ぷっ…あはは…!』
「やっと、笑ったな」
『え…』
確かに最近、ずっと何かに押し潰されたままで、心から笑えた事なんてそうそう無かったかもしれない。
「ずっと、笑ってなかっただろ」
『そう…かもね』
二人でやったからか、案外速く終わってしまった。まだのんびりしてても、父から文句は言われないだろう。
「帰るか」
『私はまだゆっくりしてく』
「そうか。なら俺も残る」
『い、良い。親も…心配してるでしょ』
「良いから、座れ」
一人になったら…また泣いてしまいそう。だって、辛いから。辛いから…泣いて吐き出さないとやっていけなかった。でも、吐き出す方向はきっと君じゃない。君に向けてしまったら、それこそ自分に負けを認めているみたいで。
『随分とお人好しじゃん。私は一人で良いのに』
「俺も暇だからな」
『何だ。結局剣城も暇人なんじゃん』
少し窮屈な心を開いて窓に目を向ければ、資料作りを終えた人達が疎らに帰っていくのが見える。確か4時までは開放していたし、ギリギリまでかかったと言えば問題ないでしょ。
『部活は何入るの?』
「サッカー部だ。お前は…」
『入らないよ。部活には…入らない』
「そうか」
本当は部活だって入ってみたい。けど父からの許しは得られないだろう。だから私は黙って操り人形になるんだ。皆を守りたいから。
『まぁ、部活で色々やるのも楽しそうだけどね』
「?」
『さて、そろそろ帰ろっかな』
「そうだな」
軽い鞄を持って教室を出れば、桜吹雪が校舎をピンク色に染め上げていて。でも、もう少し綺麗な心でこの風景を見ていたかった。こんな濁った心のままじゃ、きっと桜も濁って見えてしまう。
『家、どっち?』
「送っていく」
『私の家、知らないでしょ』
「お日さま園だろ」
『違うよ。お日さま園じゃない。じゃあね。私こっちだから』
昔は楽しかった。こんな事忘れてはしゃいで。だけど…いつからだろう。いつから、溜まったストレスを発散出来ずに抱えてきているんだろう。
「雪音」
『マサキ。久しぶり』
「高校生活、どうよ」
『聞きたいのはそんな事じゃないでしょ』
「まぁね。ヒロトさんに言われてるし」
『あっそ』