第17章 Loss!〈遠坂 雪音〉
「それに、元はと言えば、相手にすんなり入れ替わりを許してしまった俺が悪い」
何か、凄い見た目怖いのに、何でこんなに優しいんだろう。どうして、記憶を失った私にそんな優しい目を向けてくれるの。
『と、というか、今日はこれで帰るから!もう二度とあんたとは合わない!じゃあね!』
心が何となく締め付けられる気がして、急いで会場を出た。私も、もう君の事を忘れるから。最後に君と話した時間は、少し楽しかったよ。
「雪音」
『お父様』
「帰るぞ」
『はい』
私は記憶を失ってから、手術費を出してくれた北大路家の養子として迎えられた。けど楽しい事は何も無くて、逆に束縛された暮らしに少しストレスを感じ始めている。
「この前のテストはどうだったんだ」
『全教科満点でした』
「そうか、それなら良い。北大路家に迎え入れられたのならば完璧を目指せ」
別に私は完璧なんてどうでも良い。というか、半ば私は人質の様なもので、お日さま園の皆を守る為に一人こうやって北大路家にいる。北大路家は大きな財閥の家であり、権力も強い。手術費を払った代わりに私を寄越せと要求し、出来ないのならばお日さま園を解体すると脅してきた。
『はい、お父様』
私はお日さま園の子達が大好きだ。私の友達の狩屋だっている。だから守りたかった。大好きなお日さま園を。私が我慢すれば、皆が笑顔でいられる。それで良いの。それで…。
ーー中学卒業後
「雪音、もう少し勉強して行こうか?」
『…うん』
「大丈夫?婚約者の事…」
『正直、逃げるので精一杯。毎日安心して眠れやしない』
「…」
最近、お父様がいきなり婚約者を紹介してきた。そいつは何ていうか、気持ち悪い奴で、隙あらば触ってこようとする。けれど、お父様の会社と親交を深める為に私は利用されるのが当たり前。今迄の生活なら我慢できた。けど…こんなの、あんまりだよ…。
「いつでも、泊まりに来て良いんだからね」
『ありがとう、菖蒲』
今の生活は、正直涙が出る程辛い。高校は偶々お父様が指示してきた学校が私のレベルに合っていたから何とかなったけど…せめて、部屋に婚約者を入れないで欲しい。
「どうする?今日、泊まる?」
『多分無理。許可貰えないから』
「そっか…」
最近は菖蒲と話している時や、移動の時以外はイヤホンを着用して聴きたくない音を遮断している。その方が、まだ耐えられる。