第2章 Darkness!〈遠坂 雪音〉
正直、あの時は興奮していて詳しい事は何も覚えていなかった。
『すみません…あの時の詳しい事は覚えていなくて…』
「どういう事だ…?」
『麻乃さん…』
「まぁ良いよ。剣城少年は口硬いし」
『どうやら、私はドーピングを受けているようでして…』
「ドーピング…?」
『いきなりこんな所に連れて来られたかと思えば、いきなり薬を打たれたんです。だから、皆さんと手合わせした時はおそらく興奮状態にあって、正直あまり良く覚えて無くて…』
「そ、そうか…」
「へぇ…剣城少年は女の子には優しいんだね〜」
「は、はぁ…⁉︎」
「はいはい、照れない照れない。ま、その辺にしといてあげなよ」
「…」
『あ、あの…!心配して頂いて、有難う御座いました…!』
「べ、別に心配なんて…!」
「素直じゃないなぁ〜!じゃ、雪音ちゃんもそろそろ寝た方が良いよ。明日も早いだろうから」
『は、はい…!』
麻乃さんに言われるがままに、目蓋を閉じた。その瞬間に眠気がどっと押し寄せてくる。きっと混乱していたからなんだろう。また明日も薬を打たれてしまうのだろうか。そうしたら…自分は壊れてしまわないだろうか。そんな不安と共に意識を失った。
ーー翌日
「雪音ちゃん、起きて」
『う…うう…』
「もう一時間で迎えに来ちゃうから。お風呂入ってきなよ」
『お、お風呂ですか…?』
「案内してあげる。おいで」
『は、はい』
麻乃さんにそのまま付いていくと、大浴場が見えた。こんな所まであったんだ…。
「さ、行くよ」
『え、あの、麻乃さんも入るんですか?』
「私も徹夜だったからさ〜。嫌なら後にするけど」
『い、いえ!一緒が良いです!』
麻乃さんもいろいろ大変だったようだ。フィフスセクターってブラック企業なのかな…?
「ふぅ…気持ちいい…!」
『あ、あの…麻乃さんは…どうして此処に…?』
「ん〜?どうしてだろうねぇ…?」
『え…?』
「何か、付いてきちゃった」
『付いてきちゃったって…良いんですか?』
「どうして?」
『麻乃さんなら、もっと好きな事してそうだなって思ったので…』
「そうかな?う〜ん、どうだろ」
呆れながら笑う姿は、何処か吹っ切れているように見えた。
「なら、君は私みたいに縛られてないで、自由に生きて」
『え…?』
「君は…もっと羽ばたけるよ。もっとずっと」
『私が…ですか…?』
「うん、絶対」