【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第142章 ◇第百四十一話◇彼女を救うのに武器は要らない【女型の巨人編】
「アニを、助けてあげて。」
えー。
戸惑うような声は、アルミンだったのだろうか。
それとも、ベルトルトだったのだろうか。
私はただ、懇願するように続けた。
「アニが言ってたの。ライナーとベルトルトはすごく頑張ってる。
だから、絶対に一緒に生きて故郷に帰りたいって。」
「…っ!僕だって!!アニを連れて帰ってやりたい!!でも、無理なんだ!!」
「無理じゃない!!大切な人のそばにいることが無理になる日なんて、来るわけない。
自分が望みさえすれば、守りさえすれば、ずっとそばにいられるよ。
だから、お願い…。アニをひとりにしないであげて。置いて、行かないで…。」
誰かの血を浴びた頬を洗い流すように、涙が零れた。
あの日、女型の巨人を泣かせたのは、私だ。
酷い言葉を投げつけた。
惨い仕打ちをした。
もっと早く、アニのSOSに気づいてあげられていたらー。
可愛い妹だと言いながら、何もしてやれなかった私に出来るのは、アニをひとりぼっちにはしない未来を作ること。
もうそれしか、残っていないー。
ベルトルトが刃を振り上げた腕が、ゆっくりと落ちていく。
届いたー、そう思ったけれど、ベルトルトは目を伏せて言う。
「ダメなんだ…。僕たちの手はもう、汚れてしまったから。」
悲しそうなその横顔は、悲鳴を上げているようだった。
助けてやりたい。
壁の世界に囚われている人類ごと、彼らのことも助けてやれたらー。
でも、ちっぽけな私に出来ることなんてひとつもなく、仲間と自分の命を懸けることが出来る強さを持ったエルヴィン団長の刃が、ベルトルトとエレンを繋ぐ紐を切り落とした。
落ちていくエレンをミカサが受け止める。
「総員撤退!!」
エルヴィン団長が最後の指示を叫ぶ。
目標は達成された。
きっと故郷という場所に逃げていく彼らは、アニの元へ戻らないー。
「いや…っ、待ってっ!ねぇ、ベルトルト!ライナー!!
話をしよう!!お願いだから、アニをひとりにしなー。」
「さぁ、も行くよ!」
ナナバさんが私を片腕で抱えて、ライナーから飛び降りる。
続々と集まる巨人達が、鎧の巨人を隠していく。
それでも私は、叫び続けた。
どうかお願い、アニをひとりにしないでー。
私達は、彼女の仲間には、なってあげられないからー。