第124章 ◇第百二十三話◇パパとママにさようなら【女型の巨人編】

乳児院に連れて行く前に、ヨシュカの大好きなお散歩に連れて行ってあげたいー。
そんな私の願いを聞き入れてくれたリヴァイ兵長と一緒に、ほんのひとときだけの偽物の家族で、今日も厩舎近くの広場にやってきた。
膝に座らせて腰を降ろしても、ヨシュカはすぐに芝生の上に降りてハイハイして行ってしまう。
時々、草をむしって食べようとするから目が離せなくて、声をかけながら遊んでやれば、嬉しそうに私へと手を伸ばす。
抱き上げると、ヨシュカは嬉しそうな声で笑った。
今日で、このお散歩が最後だなんて、夢にも思っていないのだろう。
そう思うと胸が苦しくなって、ヨシュカを抱きしめた。

「おい、ガキ。」

リヴァイ兵長が、私の腕の中からヨシュカを抱き上げる。
兵門の前で初めて赤ちゃんを見つけたときは、小さく柔らかい存在に怯えていたのに、今では慣れた手つきで片腕に乗せて抱いている。
それくらい、リヴァイ兵長もヨシュカを抱っこしてあげていたということなのだろう。

「強く生きろ。負けんじゃねぇぞ。」

リヴァイ兵長が、ヨシュカの髪をクシャリとした。
くすぐったかったのか、嬉しかったのか、ヨシュカが無垢な笑顔を見せた。
その可愛らしい笑顔が、まるでナイフのように、私の胸を切りつける。
これからこの子は、強く生きないといけないのー。
まだ産まれたばかりなのに、負けてはいけないのー。
泣いて、甘えて、守られているだけで、この子は私達に生きるということを教えてくれる、すごい存在なのにー。
どうしようもない気持ちになって、私の手がヨシュカに伸びる。
母親の代わりに育てる？－そんなの無理だ。私には命を育てるなんて責任、持てない。
じゃあ、調査兵団で預かり続ける？－命を懸けて戦う兵士達には、赤ちゃんを育てる時間も、恐らく残された時間もあまりない。
それじゃ、私は何のために、リヴァイ兵長の腕の中で笑うヨシュカを抱き上げようとしているのだろう。
ヨシュカに手が触れようとしたとき、後ろから誰かが叫んだ。

「ヨシュカ…！！」

それはひどく悲痛で、そして、ひどく愛に満ち溢れていた。