【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第90章 ◇第八十九話◇悪夢【恋の行方編】
驚いたのは、私だけではなかった。
リヴァイ兵長も、自分の行動が信じられなかったみたいで、目を見開いて、繋いだ手を見ていた。
「やっぱり、まだお腹空いてないし、
夕飯はもう少ししてからにしましょうか。」
私はまた、ベッドの縁に腰を降ろした。
すると、リヴァイ兵長の手が、ゆるゆると私に伸びて、そっと抱きしめた。
いや、抱きしめるというよりも、縋りつくみたいだったー。
その力は驚くほどに弱弱しくて、私の知っているリヴァイ兵長とは全然違っていた。
でもきっと、今のリヴァイ兵長も、本当の姿のひとつなのだと思う。
人間なのだから、いつも人類最強の兵士でいる必要はないし、いられるわけがない。
まるで、小さな子供が母親を求めるように、母親の愛を求めるように、縋るように。
決して強い力ではないけれど、それでも、悲しいほどに必死にしがみつくリヴァイ兵長を、私も優しく包んだ。
「怖い夢を見たとき、母がいつもこうしてくれていたんです。
そしたら、すごく安心して、また眠たくなっちゃうんです。
魔法みたいで、怖い夢は好きじゃないけど、こうされるのは好きでした。」
私はリヴァイ兵長の頭を優しく撫でた。
もう大丈夫よー、幼い私を抱きしめながら母が頭を撫でてくれると、本当に大丈夫な気がした。
私の世界はあの悪夢ではなく、安心できるこの腕の中なのだと信じられて、すごく安心したのを覚えている。
「あぁ…、そうみたいだな。」
リヴァイ兵長は小さく、自分に教えてやるように言って、私の胸に顔を埋めた。
私はそっと、リヴァイ兵長の頭を撫で続ける。
今夜は、彼の見る夢が、幸せな光景を映してくれますように。
そこでは、彼が伸ばす手を、彼の愛する人達が笑って掴んでくれますように。
誰かの代わりになることも、助けることも出来ず、撫でることしかできないこの手で、ただひたすらそう願ってー。
「リヴァイ兵長、大好きです。」
「…なんだ、急に。」
「急に、言いたくなって。」
「変わってるな、お前は、本当に。」
リヴァイ兵長の声が、ほんの少し柔らかくなった気がした。
私の気持ちが、リヴァイ兵長の心の寂しさをほんの少しでも、埋める何かになればいい。
ひとりじゃないってことを知っていてほしい。
自分を想うよりも大切にしたいと思っている人間がいることを、自分は愛されているのだということを、どうか忘れないでー。