【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第90章 ◇第八十九話◇悪夢【恋の行方編】
書類にペンを走らせていた私は、部屋が暗くなってきたことに気が付いて、ランタンに火を灯した。
壁掛けの時計を確認すると、そろそろ夕食の時間のようだった。
医療兵が出した薬には、眠くなる成分が少し強めに入っているらしい。
だからなのか、今までの疲れが溜まっていたのか、リヴァイ兵長は、夕方頃からずっと眠っている。
(起きる前に、夕飯を持ってこようかな。)
ローテーブルの上に広げていた書類を片付け始めた。
昼間、リヴァイ兵長が起きている間に部屋の掃除は終わらせたし、夕食の後の薬を飲ませたら、部屋に戻ろう。
「…っ。」
小さなうめき声が聞こえて、不思議に思って、私はベッドの方を見た。
相変わらず、リヴァイ兵長がベッドの上で眠っている。
どうしたのだろうー。
ベッドまで行くと、悪い夢でも見ているのか、眠っているリヴァイ兵長が眉を顰めていた。
ベッドの縁に腰かけ、リヴァイ兵長の髪をそっと撫でる。
熱があるせいか、悪い夢のせいか、額のあたりに汗を掻いていた。
「…っ。…ベル…っ。」
リヴァイ兵長が、苦しそうにもがきながら口を動かす。
よく聞こえなかったけれど、誰かの名前を呼んだようだった。
たぶん、イザベルー。
「大丈夫、大丈夫ですよ。」
何と言ってあげればいいか分からなかった。
だから、ルルがそうしてくれたように、優しく頭を撫でた。
私は、それだけで、とても心が落ち着いたからー。
でもきっと、私が感じた心の痛みなんて、リヴァイ兵長の知っているものとは比べものにはならなくて、少しでも痛みがやわらぐことを願って頭を撫でてみたところで、その苦しそうなうめき声が消えることはなかった。
そしてー。
「ファーランッ!!!!」
リヴァイ兵長は大声で誰かの名前を叫んで、飛び起きた。
伸ばした右手は、その誰かの手を掴もうとしていたのだろうか。
目を見開き、今も尚、地獄を映し続けているように見える瞳が痛々しかった。