【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第83章 ◇第八十二話◇魔法の呪文を唱えて【恋の行方編】
モーリの言う通り、のうのうと生温い幸せの中で生きていた私は、人間以下の鬼畜を罵る言葉を、知らなかった。
それが悔しくて、悲しかった。恥ずかしくもなった。
ただ好きな人のことが知りたくて、地下街にいたときのリヴァイ兵長のことを想像したことがある。
今よりも若くて、きっと強くて、きっと今みたいに優しくてー。
地下街がどんなところかも知らずに生きてこられた私が想像したものなんて、ほんの1秒も現実に過去にあった映像とは重なっていなかったのだろう。
自分の甘さを思い知らされたことも、私の知らない世界に蔓延る地獄が恐ろしくて身体が震えたことも、自分が嫌いになりそうなくらいにショックだった。
唇を噛んで睨みつけたが、モーリも怖い顔で睨み返してきた。
そしてー。
「それをあのクソ野郎はー。」
ソファから立ち上がり、私の元へ歩み寄るモーリは、目の前に立つと声を荒げた。
「逆恨みして、襲ってきやがったっ!
偶々、俺はその日、別の場所にいたから助かったが…。
俺の兄貴と仲間達はリヴァイに殺されたっ!!あの人殺し野郎っ!!」
モーリは怒りがおさまらない様子で、近くにあった鉄パイプを蹴り上げた。
大きな音を立てた後、鉄パイプは転がって壁に当たって止まった。
(どんな、気持ちで…。)
リヴァイ兵長は、傷つけられて帰ってきた大切な少女をどんな気持ちで守ったのだろう。
どんな気持ちでー、大切な少女を傷つけた男達の前に立ったんだろう。
少女の気持ちも、リヴァイ兵長の気持ちも、想像もできない。
私には到底たとえようもない苦しみに、心が引き裂かれそうだった。
「だからよ、今度は俺がアイツをぶっ殺してやるんだ。」
モーリは膝を曲げて屈みこむと、私の顎を乱暴に掴んだ。
憎しみの炎を瞳の奥に燃やし、意地の悪い口元を歪めて言う。
「妹分がいたぶられて怒り狂ったあの男は、自分の女が俺に好きにされたと知ったら
どんな顔するんだろうなぁ?楽しみで仕方ねぇよ。」
モーリが、私の顎を掴んでいた手を力任せに押したー。