【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第79章 ◇第七十八話◇迷子【恋の行方編】
ようやく会場となっている建物から出ても、そこは修羅場のままだった。
冷たい夜風も忘れたみたいに、逃げのびた人達が右往左往している。
貴族たちは自分の馬車に乗り込むのに必死で、調査兵に何かを喚き散らしたりもしていた。彼らには、必死に命を守ろうとしている調査兵達の声が届いていないようだった。
私は人の少ない建物の端の方まで逃げると、そこで男の子をおろした。
「もう大丈夫だよ。痛いところあるかな?」
「いたぁぁい、あしがいたぁぁいっ。」
「足が痛いの?」
私は、男の子の足を改めて確認する。
ズボンの裾をめくると、膝に擦り傷が出来ていた。
念のため、腕や足を曲げてみるが、骨に異常はなさそうでホッとする。
「いたいのいたいの、とんでいけ~。」
子供の頃、母親にそうしてもらったみたいに、私は男の子の膝を優しく撫でて、おまじないをしてやる。
子供騙しだけれど、ただそれだけで、痛みが消えていくような不思議な感覚を今でも覚えている。
すると、一瞬、キョトンとした顔をした男の子から、ようやく涙が消えた。
「ママといっしょ。」
男の子が、ハニかむ。
「ママもしてくれるの?」
「うん、いたいたいしたらしてくれるよ。」
「そっか。じゃあ、ママにおまじないしてほしいね。
今、ママはどこかな?ママとパーティーに来てたの?」
「ママ、ごはんつくってた。ここでまっててって。
でも、ドーンてなって、ママこなくて…。
ママ…。ママぁ〜〜〜っ!」
そこまで言うと、男の子はママを求めて大声で泣きだした。
悲鳴や怒号の中で、ママを求める大きな声はあまりにもか弱くて、この声に母親が気づいてくれるとは思えなかった。
もう一度、男の子を抱きかかえると、私は母親を探した。
おそらく、男の子の母親は給仕係かコックだ。
調理場の方へ行けば、会えるかもしれない。
でも、また会場に戻るのは危険だ。
それに母親も人の波に押されて会場の外に出てしまっている可能性だってある。
どうするべきかー。
迷っている私の元へ調査兵が近寄ってきた。
「やっと見つけたぜ。」
「リヴァイ兵長に頼まれて、探してたんだ。」
「怪我はねぇか?」
私の顔を見て胸を撫で下ろしたのは、3人の調査兵だった。
体つきのガッシリしている彼らは、爆弾騒ぎの担当に任命された対人格闘の得意な兵士達のようだった。