【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第71章 ◇第七十話◇幸せを握り潰す君の手を愛したから【恋の行方編】
誰もいない談話室は、シンと静まり返っていて少し怖くなる。
大きな窓の向こうの夜空を分厚い雲が覆っていて、星も、月さえも隠しているせいかもしれない。
兵門からルーカスの乗った馬車が去っていくのが見えた。
これでもう本当に、さようならだー。
『見送りはいらないよ。君を攫ってしまいそうだから。』
傷ついた瞳と悲しそうな声が、瞼の裏から、耳の奥から、消えてくれそうにない。
どんな気持ちで、ルーカスはそんなことを言ったのだろう。
優しくて、いつも温かい人だった。
たぶん、私は、自分が思っているよりも、彼のことを好きだったー。
「は王子様を選ぶんだと思ってたよ。」
後ろから声をかけられて、私は窓の外を見るのをやめた。
振り向いて見たペトラは、さっき談話室で見せた嬉しそうな表情とは違っていた。
「どうして?私の好きな人、知ってるのに。」
笑顔を作る私に、ペトラは「だからだよ。」と困ったように言って、隣に並んだ。
「あの王子様を選んだ方が、幸せになれるって私にもわかったもん。」
「うん。私も、そう思うよ。」
「好きなんだね。」
「バカだよね。」
私は自嘲気味に口元を歪めて、自分の足元に目を落とす。
優しい人を傷つけて決めた決断が、先のない恋なんて本当に馬鹿だなと自分でも思う。
でもー。
『行くな。』
リヴァイ兵長が、私が調査兵団に残ることを許してくれた。
それが、どんな気持ちで言った言葉なのかはわからない。
でも、それだけでいい。
好きな人のそばにいられるのなら、それで幸せー。
「バカだけど、頑張ったよ。」
ペトラが私の頭を優しく撫でた。
一瞬、ルーカスの優しい手を思い出してしまって、私は小さく頭を横に振った。
「が恋人のフリを頼んだの?」
「うん、草原でルーカスに調査兵団を辞めて結婚しようって言われたとき、
リヴァイ兵長と恋人同士だと思ってるみたいだったから。
嫌われて別れるのに都合がいいと思ったんだけど、失敗しちゃった。」
ただ傷つけてしまっただけだったー、言いながら私はもう何も見えない窓の外を眺める。
終わりのない闇が、未来の私も全部飲み込んでいこうとしているようだった。