【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第71章 ◇第七十話◇幸せを握り潰す君の手を愛したから【恋の行方編】
調査兵団に入団する前までは、ルーカスとの結婚に対して漠然とあった不安も、今はない。
あの手は、私を幸せにする手だと、今なら心から信じられる。
それはとても、皮肉なことだけれどー。
「私、ずっと浮気してたの。あなたと付き合ってる時も隠れてこの人と会ってたの。
貴族も魅力的だけど、たくさんいるじゃない?
人類最強の兵士って世界にひとりだもの、自慢になるでしょう?」
私は首をすくめた。
全く反省していない素振りも、薄ら笑いも、全部、ルーカスを傷つけるためだった。
本当に最低だと、自分が嫌いになりそうだー。
でも、これでルーカスが私を嫌いになってくれたらいい。
思い出したくもないくらい、すぐに忘れてしまいたくなるくらい。
思い出しても憎しみが湧くだけで、悲しくならないように、嫌いになってしまえばいいと思う。
だって、嫌いになれたら、どんなに楽だろうって、私は知ってるからー。
それなのに、私の言葉に驚いたのはペトラ達だけで、ルーカスは傷ついた顔もしないで、悲しそうにもしないで、寂しそうに微笑んだ。
「僕が、そんな嘘を信じると思うの?」
寂しそうな笑みのまま、ルーカスは私の頬に触れた。
またねー、サヨナラの前にはいつもそう言って私の頬を名残惜しそうに撫でていた、優しいルーカスの指先。
そっと触れる感触も温もりも全部、あの頃のままで、気持ちまで戻ってしまいそうになる。
でも、私はその手を冷たく振りほどいた。
「信じるも信じないも、それが真実だもの。」
スッと目を反らして、私は冷たく言う。
「それなら、僕からも真実をひとつ、いいかな。」
「真実?」
思わず、私はルーカスを見てしまった。
私と目が合って、ルーカスは口を開いた。
「ここにいる君以外のみんなは知っているんだけど。」
ルーカスは、リヴァイ兵長達を見渡す。
何を知っているのだろうー。
緊張しながら、私は続きを待った。
「僕の本当の名前は、ルーカス・フォン・ユーリヒ。」
「え…?」
「王族とは親戚関係で、ストヘス区ではなく王都に住んでいる。
君の家族を移住させられなかったのは、
王都にトロスト区の民間人を入れることを反対させられたからなんだ。」
「うそ…。」
「信じるも信じないも、それが真実だからね。」
さっきの私のセリフがそのまま、ルーカスから返ってくる。