【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第61章 ◇第六十話◇星のない夜【恋の行方編】
「リヴァイ兵長っ!」
談話室から出てすぐ、私は名前を叫んだ。
まだいるのなら、聞こえるかもしれないと思って。
でも、私の声が響いた静かな廊下で、驚いた顔をしてこちらを見たのはナナバさんだった。
「どうした、そんなに慌てて?」
「いえ…、あの…っ。リヴァイ兵長、見てないですか?
談話室から出てきませんでしたかっ?」
ナナバさんに、必死に訊ねた。
そうであってくれーと願っていただけなのだと思う。
私は、いまだに、何を期待しているのだろう。
馬鹿だな。
だから、「見てないよ。」というナナバさんの言葉に、余計に傷つくことになるのだ。
本当に、馬鹿だ。
「そう、ですか…。」
「何か用だったの?
リヴァイなら、明日は朝からストヘス区で会議だから
もう兵舎は出てると思うけど。」
「…いえ、何でもないんです。
あの、他に誰かとすれ違ったりしませんでした?」
「誰かと?うーん、さっき、ミケになら会ったけど。」
「そうですか。分かりました。ありがとうございます。」
ナナバさんは不思議そうに首を傾げていたけれど、頭を下げた私は、また談話室に戻った。
そして、さっきまでそうしていたみたいに、また本棚の上に座る。
いつの間にか、窓を濡らす雨は止んでいたようだ。
愚かな期待をしてしまった自分に思わず苦笑する。
でも、ナナバさんからミケ分隊長を見たと聞いて、少しスッキリした。
最近、何かと気に掛けてくれている気がするし、ミケ分隊長ならなんとなくわかる気がする。
周りをよく見ている人だからー。
まだほんのり温かいティーカップを両手でそっと持って、窓に寄り掛かる。
紅茶を口に運ぶと、甘くて苦い味が喉の奥から身体中に広がっていった。
「ルル、やっと星が見えたよ。」
夜空を覆っていた分厚い雲の切れ間に、小さな星がいくつか輝いているのが見えている。
私のこの想いも悲しみの雲が晴れて、いつか、ほんの小さくても光が見える日は来るのだろうかー。