【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第60章 ◇第五十九話◇雨の日の兵士の憂鬱【恋の行方編】
「頬の傷、残らなかったんですね。」
ジャンが私の左頬を見ながら言う。
「うん、やっと絆創膏とれてよかったよ。」
「本当、よかったです。」
ジャンは本当にホッとしたように胸を撫でおろしていた。
「やっぱり、ジャンも顔に絆創膏ってダサいと思ってたの?」
「あー…、そうっすね。」
「うわー、ヒドいんだぁ~。」
私がわざとらしく恨めし気に言うと、ジャンが面白そうに笑った。
身長差に比例して足の長さも違うからか、性格なのかは分からないけれど、ジャンの方が歩くのが速くて、私は少し早歩きで隣に並ぶ。
「今日は訓練も中止して、屋内で各自人類のために出来ることをしろ、だそうです。」
「一番面倒くさいやつだね。」
「さんは、どうするんですか?」
「うーん、どうしようかな。」
「もし、座学勉強するなら俺も一緒に教えましょうか。
結構、得意だったんですよ。」
「ジャンは成績が良かったんだもんね。
特に立体起動装置の扱いが凄く上手だったってクリスタが褒めてたよ。」
「クリスタが…!?」
驚いた声を上げたジャンの顔が赤く染まっていて、私はクスリと笑う。
可愛いクリスタに褒められていたことを知って、胸をトキメかせているのだろうか。
私も10代の頃は、そんな風に、頬を染めたり、ドキドキしたり、楽しいばかりの恋をしていたはずだったのにー。
大人になれば、もっと強くなって、もっと素敵な恋が出来るのだと信じていた。
でも実際は、いろんな経験を知ってしまったせいで、ただただ臆病になって、駆け引きや悪い知恵ばかり身に着けて、傷つけて傷ついてばかりだ。
「ーで、どうですか?」
「へ?」
ぼんやりしていて聞いていなかった。
それがジャンにバレてしまったようで、苦笑いされた後、もう一度何を言ったのか教えてくれた。
「立体起動装置のコツ、教えましょうかって言ったんですよ。
実演しなくても教えられることはあると思うんで。」
「すごく嬉しいけど、私、前にそうやってナナバさんとゲルガーさんに教えてもらって
危うく殺人者になりかけたから、やめておく。」
「殺人者ってなんですか、それ。」
顔の前に手を出して拒否のポーズをとる私を、ジャンが可笑しそうに笑った。
そして、調査兵団に入団して初めての訓練が散々だった話をしたら、お腹を抱えて笑われた。
失礼だと思う。