【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第57章 ◇第五十六話◇不穏のはじまり(上)【恋の行方編】
「ペトラさんから聞いたんですけど…。」
言いづらそうにしているジャンに、首を傾げて続きを促す。
「さんが酔ったら、その…、大胆になるの知ってたリヴァイ兵長が、
部屋に連れて行くって約束してたんすよね。」
「え?」
「それなのに俺が部屋に連れてっちまうから、怒ったんだって。
え?違うんすか?」
疑問符を浮かべる私に、ジャンが戸惑った様子で言う。
ペトラのうまく伝えておくというのは、そういうことだったようだ。
どうやら、ペトラは、大失恋でズタボロの私に、酔っぱらったら見境なく男を誘う変態女という称号を与えてくれたらしい。
他にも何かうまいやり方があったのではないか、と一瞬思ってしまったけれど、あの状況をどうやって誤魔化すのがうまくやる方法かと言われたら私も分からない。
ペトラの精一杯の嘘は、むしろ有り難いものだとすぐに考えを改める。
「ううん、そうなの。ビックリさせちゃって、ごめんね。」
ペトラの嘘に乗っかって、私は困った顔に笑みを乗せた。
「いえ…っ、ビックリは、しましたけど…。大丈夫です。」
私を見ずに地面を見ながらまるで自分に言い聞かせるように言って、ジャンは深く頷いた。
また、気まずい沈黙が訪れる。
今度は、先に口を開いたのはジャンだった。
「リヴァイ兵長って、さんのこと、好きなんですかね。」
前屈みになって膝の上に両肘を乗せて両手を握るジャンは、自分の手を見ながら言う。
自分に確かめるようでもあったけれど、でも、それは確かに私へ向けてかけられた言葉だったのだと思う。
そうでなければ、大きすぎる独り言だ。
「まさか、そんなのありえないよ。」
私は自嘲気味に言う。
そうではないから、私は今、史上最大の失恋に打ちのめされているのだ。
あからさまに避けて、目も合わせたくない女をリヴァイ兵長が嫌いだということはあっても、好きなんてことは天地がひっくり返ったってありはしない。
「でも、好きじゃないと他の男がその…、そういうことしようとしても
あんなに鬼みたいに怒らないんじゃないですか。」
どこか遠くを見ていたジャンが、私を見て訴えるように言う。