【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第57章 ◇第五十六話◇不穏のはじまり(上)【恋の行方編】
なかなか追い付かず、必死に呼び止めること数度目で、ようやくジャンは立ち止まってくれた。
ジャンの背中の後ろで、私は両膝に手を乗せてなんとか肩で息をする。
目の前のジャンは少し息が切れているだけだ。
体力が足りないのを改めて実感する。
明日からは、訓練に体力作り中心の鍛錬をもっと加えた方がよさそうだ。
「大丈夫ですか?」
心配そうに顔を覗き込んでくるジャンに、私はなんとか頷いて返事をする。
少し息を整える時間をもらった後、私はジャンに近くのベンチに座って話をしようと誘った。
丁度、詰所の裏の人気のない場所だったからか、人の目を気にするジャンも頷いてくれた。
「それ、どうしたんすか?」
1人分の距離を開けて、隣に座ったジャンは、自分の左頬に触れながら訊ねた。
「あぁ…!昨日、ちょっとね。」
顔に絆創膏をつけていることを思い出した私は、恥ずかしくなって、自分の左頬に貼ってある絆創膏を擦った。
「傷、残らないといいですね。」
「いいよ、別に残ったって。」
「え、でもー。」
「それより、この前は、本当にごめんなさいっ。」
私は、ジャンの方を向いて頭を下げた。
彼には、本当に失礼なことをした。
「いえ…っ、俺の方こそなんか…っ、すみませんでしたっ!」
ジャンが、顔を赤くして頭を下げる。
でも、彼に謝る理由なんてひとつもない。
「ジャンは何も悪くないよ。
それなのに、怖い思いさせちゃって、本当にごめんなさい。」
「いえ…。」
怖い思いで、思い出してしまったのか。
ジャンは、少し視線を落とした。
気まずい沈黙が流れる。
「あの後、リヴァイ兵長から何かされなかった?」
「いえっ!エレンと会った時に顔は見ましたけど、いつも通りでしたっ。
だから、大丈夫っすよ。」
「いつも通り、か…。」
いいなーと喉の奥まで出かけて、なんとか飲み込んだ。
どうやら、嫌われたのは私だけだったらしい。
それなら、よかった。
よかったー。