【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第31章 ◇第三十話◇悲しいくらい健気な願い【調査兵団入団編】
部屋の窓から見える月明かりが、闇夜の中で頼りなく光る。
満月にはなりきれていない寂し気な月は、まるで、リヴァイ兵長への想いが欠けてしまった自分の心みたいに思えて、私は自分の胸元をギュッと握りしめた。
壁外調査前の最終会議は、そろそろ終わる頃だろう。
リヴァイ兵長は、約束を覚えているだろうか。
几帳面な人だから、ちゃんと約束は守ってくれるだろう。
約束を受け入れてもらってからずっとズキズキと痛む胸が、リヴァイ兵長が約束にだらしなかったらいいのにと思っていて、自分が嫌になる。
どれくらい窓の外を見ていたのか、しばらくして、部屋の扉が開いた。
驚いてビクッと肩を揺らしてしまった私は、深呼吸をしてから後ろを振り向いた。
「クリスタに可愛い便箋もらっちゃった~。」
部屋に戻ってきたルルは、嬉しそうにレースの飾りがついた便箋を見せてくれた。
左下に描かれた天使の羽は、リヴァイ兵長からもらったあのティーカップの飾りに似ていた。
「ハンジさんに貰いに行ったんじゃないの?」
「そうなんだけど、会議がなかなか終わらなくて待ってられなくて。
たまたま通りかかったクリスタに話したら、可愛いの持ってるって言うから、
貰ってきちゃった。」
「よかったね。」
「そういえば、帰る途中にハンジさんに会ったよ。
やっと会議終わって、疲れてるみたいだったから
声かけづらかったし、ちょうどよかった。」
「そっか。」
予定よりも可愛い便箋を手に入れたルルは、ご機嫌でデスクに向かいだした。
壁外調査前に、両親に手紙を残すためだ。
今夜、デスクの前に座る調査兵はどれくらいいるのだろう。
悲しいくらいに優しいその手紙を残す相手は、家族だったり、恋人や友人、想いもそれぞれだろう。
でも、みんなの願いはひとつ。
(どうか、今夜書かれた幾つもの手紙が、どこにも届きませんように。)
ルルも、他のみんなも、その手紙を誰かに渡さないといけないようなことにならないように願う。
エルヴィン団長は、壁外調査では毎回3割を超す犠牲を伴うと言っていた。
いまだ犠牲者が出なかったことなんてないとー。
でも、明日からの壁外調査がその前代未聞になるかもしれないじゃないか。
それが、どんなに楽観的で、愚かな期待だなんて知らない私は、今頃2人きりで過ごしているだろうリヴァイ兵長とペトラのことを考えていた。