【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第25章 ◇第二十四話◇好きになった人【調査兵団入団編】
玄関まで見送りに出た母は、とても名残惜しそうに私の手に触れた。
子供の頃、いつも握ってくれていた大きな母の手。
大人になっても小さめの私の手より、少し大きいだけの今の母の手は、皴が増えていて、あの頃の感触とは違う気がする。
何度か出た壁外任務とは違い、今度の壁外調査は数日間を予定している。エルヴィン団長が言っていた通り、そこで3割の兵士が命を落とすことになるとしたら、私がその数字の中に入っていないとは言い切れない。
むしろ、初めて参加する私や新兵はその中に入っている確率が、他の兵士よりも数段高いのだろう。
私はこの手を、もう一度、握ることは出来るのだろうか。
また触れてもらうことは、出来るのだろうか。
「また、遊びに来るね。」
母の手を強く握った。
これはおまじない。必ず、生きて帰ってくるというおまじない。
また、母に会えますように。
今度は、父にも、兄弟にも会えますように。
「何言ってんの。お母さんのところに遊びに来る暇があるなら、
兵士長さんに、力のつくものでも食べさせてあげなさい。」
困った顔でそう言う母だって、握りしめる私の手を離そうとはしない。
本当に離れたくないのは、私だろうか。母だろうか。
そっと手を離すと、ゆっくりと母の手も離れていった。
「アンタの娘は確かに気が強ぇ。」
「え?」
「しかも、相当だ。誰に聞いても、気の強ぇ女だと言うだろう。」
「…すみません、本当に。」
急に喋り出したリヴァイ兵長に、私はなぜか猛烈なダメ出しをされている。
もう逃げて帰りたい。
兵舎まで、走って帰りたいくらいだ。
「だが、芯がある。」
「え?」
「時々、おれ達が心配になるくらいに無理をすることもあるが、
そうやってアンタの娘は、自分の居場所を自分で作った。
自分の決めたことに真っすぐ向き合うを、今はもう誰も異物者だとは思わない。」
「そうですか。はそちらでちゃんとやってるんですね。」
「ガキの頃の話をしていたが、ちっとも変ってねぇってことだ。
なんでも器用にこなして、頼りにされてるし、周りにはいつも誰かがいる。
これからアンタの娘が帰る場所には、味方しかいねぇんだ。」
リヴァイ兵長は急に何を言い出すのかと思ったけれど、恥ずかしさで耳が熱くなる。
でも、とても有難かった。