【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第3章 ◇第二話◇不本意な兵士達の戦い【調査兵団入団編】
彼の視線の先で、ベテランの駐屯兵と話しているスキンヘッドの男。彼の名前ならば、民間人でも知っている。
駐屯兵団司令官であり、現人類領土南部最高責任者のピクシス。兵士達には、ピクシス司令と呼ばれている。
この兵士は、上官が現れて、慌てて敬礼をしたということらしい。
そんなことを考えながらピクシス司令を見ていると、兵士の肘が肩をつついた。
何かと兵士の顔を見ると、敬礼のポーズのままで何かを訴えてくる。
どうやら、私にも敬礼をしろ、と言っているようだ。
兵士ならば理解できるが、私も必要だろうか―とも思ったが、この非常事態を救ってくれるのは駐屯兵団のトップであるピクシス司令しかいない。
その彼に敬意を示すのは、当然かもしれない。
そう思い直し、見よう見まねで敬礼のポーズを取っていると、ピクシス司令がこちらに気づいて近づいてきた。
「君の心臓は右にあるのかな?」
目の前までやってきたピクシス司令に訊ねられた。
「いえ…、左だと思います。」
意味が分からないまま答える私の隣で、兵士が大きなため息を吐いた。
「お許しください。こいつは今日、非番で、頭が休みから抜けていないんです。」
「非番?制服を着ているようじゃが?」
「今、着替えが終わったところです。これからは任務に入ります。」
「そうか。
こんな状況だ。混乱するのは当然じゃよ。心臓が右にあるのなら、よかったわい。」
非番?非番というのは兵士の休日のことだったか―?
そんなことを考えている私の頭上で、兵士とピクシスが言葉を交わす。
「敬礼は出来なかったこいつですが、つい先ほど、巨人を倒し母親と娘を救ったところです。
心臓を捧げる覚悟に嘘はございませんので、ご安心ください。」
「ほぉ、それは素晴らしい。
・・・それにしても、駐屯兵にこんな美人がおったかな?
わしが美人の顔を忘れるわけはないと思うのじゃが。」
ギョロッとした大きな目が、目の前に現れて一瞬たじろいだが、すぐにピクシス司令の言葉の違和感に気づいた。
そして、着替えとして制服を持ってきた兵士の勘違いにも―。