第1章 鉄砲雨
「昼間から鬼が現れるとはな……無事でよかった」
死を覚悟した私を救ったのは、水色に淡く光る刀を持ち、黒い洋服を着て、背中に滅の文字を背負った女性だった。
女性いわく、あの化け物は鬼といって、人を主食にして生きているのだという。
「ご両親は?」
「鬼が、殺した」
私がそう答えると女性は悲しそうに目をふせ、埋葬させて欲しいと頭を下げたので、私は自分の家に案内することにした。
追われている時は街に向かうことしか頭になかったので、思ったよりも家から離れていてこんなに逃げたのかと自分で自分に驚いた。
火事場の馬鹿力というのは案外侮れない。
二人とも傘を持っていなかったため、ずぶ濡れになりながら田舎道を歩く。
その道すがら、私は女性に鬼について様々な話をきいた。
鬼は特殊な条件下でないと死なないらしく、それ以外の方法で傷つけてもたちまち治ってしまうこと。
その女性は鬼を殺すための組織「鬼殺隊」の一員であるということ。
鬼殺隊員は過酷な鍛錬、試験を乗り越え、鬼に対抗する力を持っていること。
そんな話をしているうちに、家に着いた。
父母と鬼が居た部屋に女性を案内する。
手や足、腹など、体の一部が欠損しているのは鬼に喰われたからだろう。
改めて父母を見ると恐怖により歪められた顔とぴくりとも動かない体に、もう二度と二人の声も、笑顔も向けて貰えないのだと、死んでしまったのだということが、嫌でもわかってしまう。
女性は私の両親に手を合わせると、ずぶ濡れ、血まみれ、泥まみれになるのも気にせず、手際よく死体を埋葬した。
埋葬が終わると、ただ泣くことしか出来なかった私に二つの選択肢を示した。
ひとつは鬼のことを忘れ、近くの町や遠縁の親戚の元で一般人として生きていくこと。
もうひとつは藤の花の家紋の家で鬼殺隊の手助けをして生きていくというものだった。
どちらを選んでもいい、とても優しい声で私の命の恩人である女性が言う。
でも私は、そのふたつのどちらも選ぶことはしなかった。
「お願い、します。私に、鬼を殺す手段を教えてください」
「……その道はすごく厳しいよ。泣いたってどうしようもならないくらい辛いし、毎日今日みたいに命の危険が付き纏う」
「それでも、私は強くなりたい」
女性はとても悲しそうな顔をしながら、わかったと呟く。
こうして、私は鬼殺隊員になるための鍛錬を始めた。