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ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編

第9章 夏の夜の話








立ち込める煙と火薬の匂いに包まれて最後の線香花火がチリチリと揺れる



「線香花火、前にもしましたね」


「うん。」


「………あの時イルミさんが何言ったか覚えてます?」



薄暗い中で見詰めた彼の横顔は長い睫毛を僅かに伏せていて少し儚く見えた



懐かしいあの日彼は私を線香花火みたいだと言った


その言葉が悲しくて切なくて私は………




「覚えてるよ。」



彼は凜とした声で言った


儚く見える横顔とは相反する様にはっきりとした口調で今其所に確かに存在しているのだと感じさせる声色は



「沙夜子みいだね、直ぐに消えちゃうから。」



過去をなぞる様にあの日の台詞を口にした



途端にじりじりと燃える小さな火花が呆気なく地面に落ちて消えて私達を静寂が包んだ




「それはイルミさんじゃないですか…………」



あの日の私が口に出せなかった台詞が唇から思いがけず漏れて


慌てて顔を上げた私を彼はじっと見詰めていた



「………うん、そうだね。」



何処か優しい響きが鼓膜を揺らして



「本当は沙夜子がそう言いたかったって気付いてた。」



懐かしむ様に今を包む様に紡がれた愛しい声が真っ直ぐ胸に届いて無性に泣き出してしまった


…………いや、正確には途端に涙が流れ出したのだ



あっという間に居なくなってしまった彼


私は懸命に走ってまた再び彼との時間を手に入れた

切なくて悲しくてどうしようも無かった気持ちが今救われた気がして

悲しい程の見て見ぬフリも気付いていないフリも必要無い

もう彼との別れに怯える事は無いのだと安堵する様に涙はポツリポツリと地面を濡らした




「………参ったな、泣かせる気は無かったんだけど。」



なんて溢しながら私の背丈に合わせて屈んだ彼が優しい手付きで涙を拭う


「泣かないで、沙夜子の親に叱られる。」


間の抜けた声が本当にそう思ってはいなさそうで思わず笑ってしまう


幸せだ


幸せで幸せ過ぎて本当に現実なのかと錯覚する様な毎日がこれからもずっと



「嬉しくて泣いてるんです」



涙声で伝えた真実に彼は小さく息を吐き出してから僅かに口元を緩めた


「沙夜子は忙しいね。」











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