ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第22章 美景
緩んだ手からやんわり拐われた傘がポタポタと肩に雫を落とす
雨に濡れたアスファルト特有の匂いが生ぬるい秋の夜風に乗って髪を撫でる中、私は豆鉄砲をくらった鳩みたいな顔で目の前の人物を見上げていた
男性と言うには幼い顔立ちなのに甘ったるい目元に浮かんだ黒は冷酷さを滲ませている
声が喉に詰まって瞬きを数度繰り返す私が幾ばくも遅れて唇を開けば
目の前の彼は人懐こい笑顔を浮かべた
「………クロロさん……!!いらっしゃってたんですね……お久しぶりです」
「久しぶり」
突然現れた異世界の住民
その現実離れした異様さは彼を前にしても実感するものだが、久しく目にしたクロロさんの姿は恐ろしい程に現実味が無く
「よし、行くか」
なんて踏み出された歩幅に呆然としながらも一歩を踏み出す
「………いつから来てたんですか……?」
「つい先日から」
「へー!……あのマンションに……?」
「あぁ」
「……ヒソカさんも一緒ですか……?」
「いや」
さっぱりとした物腰で紡がれた否定の言葉に違和感は無かった
愛しの旦那様を含めて彼等は利害や目的が一致すれば肩を並べても元来から友人なんて間柄では無いと知っていたから
それは幻の様に過ぎたあの日々の中、どれだけ楽しそうに笑う時間を過ごしても彼等の間にはピリピリとした空気が一定して存在しているのを肌で感じたからだ