第74章 妊娠記録③羽伸ばし
「リネルはともかくキルアに勝手をさせるのは良くないだろ」
「さすがに今のお身体ではリネル様単身でお出しする訳には参りません。広く括れば キルア様に対しても言えぬ事ではございませんが」
「相互監視だから許可をした。って言いたいの?」
「ホホ 昔から物事のご理解がお早くていらっしゃいますねえ。気分転換がその目的故に我々使用人では気苦労を増やすばかりで役不足、イルミ様が御多忙である以上 適任なのはキルア様くらいかと」
「それ嫌味のつもり?それに理解と納得はまた別の話だよ」
「ええ 承知しております」
相変わらずにこやかにしているツボネが リネルに何かと気遣いをしている事は知っている。
母にも時たま口煩く言われるが 「たまには身重の身体を案じ労いでもかけてやれ」とでも言いたいのか。
それを確たるものにするかの如く ツボネはあからさまにリネルの肩を持つ発言をする。
「リネル様は明日にはお帰りになる と伺っております」
「そう」
「明日はイルミ様もなるべくご予定を調整なされるよう、お父上に進言いたしましょうか」
「やめてよ。リネルのヒステリーに付き合う気はないんだけど」
母といいツボネといいリネルといい、女というのは逐一面倒臭いと思う。対した中身のない会話を無視し、イルミは廊下を歩み出した。
「イルミ様」
「まだ何かあるの?」
「ええ お話しておきたいのはここからです」
「回りくどいな、何?」
「お名前は考えておいでですか」
「名前?」
「もちろんお子様の」
引きとめられ一旦足を止める。ただ ツボネの言う事柄がわざわざこの場で話す必要がある内容だとは思えない。
そんな意図を込めて振り返れば 相変わらず笑みを浮かべる顔が視界に入ってきた。