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イチバンノタカラモノ。

第3章 コイノメバエ。


ロキと正式に同居をするようになってから、約二ヶ月が過ぎた。だが、生活は変わらない。変わった事と言えば、二人で仕事をするのに慣れてきた、というところか。
そして、もう一つ、お互いの心に、不思議な感情が生まれていた。この感情をどう表現したらいいのかは分からない。そして、本人達にも分かっていないようだ。
「ロキさんとは最近どうなのー?」
昼食の場で、真理が楓に問う。
「どうって。別に何もないが」
「キスくらいはしたんでしょ?」
「すっ、するかボケ!」
「だってロキさんアメリカ人でしょ?ハグとかキスとかって当たり前なんじゃないの?」
正確にはアスガルド人なのだが、確かに向こうはそういう事は当たり前に行われている。しかし、あの日、過去を話した際に抱きしめられて以来、そういう行為は一切ない。楓は自分に女としての魅力がないのか、と少々不安になる。
「まぁでも、ロキさんにとったら、楓は妹みたいなものなのかもよ?結構年の差あるんでしょ?」
「……そうだな?」
「え、なんでそこで疑問符がつくの?」
そういえば、ロキは何歳なのだろうか。見た目は三十代と言ったところだが、彼は自分を神だと言っている。年の差、などという可愛い言葉では片付けられないかもしれない。

ロキが改めて楓の家に暮らす上で、与えられた任務があった。それは、家事である。一階から三階の掃除、洗濯、そして昼間は料理もする。大分日本の暮らしにも慣れてきて、大体のことはできる。しかし、ロキは楓以外の人間にあまり心を開こうとはしなかった。近所の住人に挨拶をされても、仰々しい会釈をするだけで、世間話をするでもない。楓は、そこを少し懸念している。
そして、ロキはパソコンや携帯電話の操作にも随分と慣れた。エクセルやワードなどは扱えないが、インターネットを見たり、依頼のメールを見たりならばもう完璧に出来る。
すると、携帯電話が震えた。メールが入ったらしい。誰からかはすぐ分かった。何故なら、彼の携帯電話には一件しか登録されていなからだ。
「今夜の夕飯はどうする?」
飾りっけも何もないが、楓からのメールはいつもこのような感じだ。ロキは思わず微笑むと、早急に返信をした。
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