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イチバンノタカラモノ。

第2章 カコノキズ。


ロキと一緒に住み始めてから、約一週間が経った。
本当に世間知らずのおぼっちゃまであるロキに、楓はかなり苦労した。
箸の持ち方、風呂の使い方、果てには服の着方さえも知らない。アスガルドではどうやらこういったスタイルの服は着ないらしく、ボタンすらまともに外せない。

ある日は、ロキがせっかく与えたパジャマを、変質者の如く思い切り開き、ボタンを全てそこら中に飛ばしてしまった。
「お前なぁ!ボタン一個つけるのにどれだけの手間がかかると思ってんだ!」
「……いちいち取るのが面倒だ。脱がせろ」
「脱がせろ。じゃねぇよ!さり気なく変態さんかお前は!」
ロキは唇を尖らせ、そっぽを向いてしまう。そんな姿に楓は脱力し、結局服を着脱させてやるのだった。

そしてまたある日は、箸で食べ物を上手く掴むことができず、魔力で食べ物を浮かせて、口へ運んでしまった。まさか初めて目の当たりにした魔力がこんな事で……とまたしても脱力してしまう。
「ほら、まず箸はこう持って、こう挟んで、運ぶ」
後ろから手を取って教えてやるが、幼児のように、ぷるぷると震えてしまい、すぐに落としてしまう。
「まどろっこしいな」
「お前がな」
「魔力で食べられるのだからそれでいいではないか」
「家の中ならまだしも、外でそれやられたら困るんだよ。いいからこれからは箸で食え。じゃないと飯抜き」
「飢え死にしろというのか」
「箸覚えりゃいいだけだろうがよぉ!!!」
ロキの「この女狂気の沙汰だ」という表情に腹を立てた楓はテーブルをばんっと叩き、ロキに怒鳴った。

さらにある日、これが正直楓にとって一番教えづらかったものなのだが、風呂だ。
シャワーの出し方も知らず、蛇口を捻っていきなりシャワーが出てきた途端、ロキが驚いて蛇口を破壊してしまった。
「修理費!!!」
「なんだこれは、ザーって!ザーって!」
「シャワーだよ!ねぇアスガルドって風呂ないの!?」
「ある」
「あるんじゃん!」
「だが、こんなものはない。どうしたらお湯が出るんだ?」
そうして教える。
一通り教え、ロキを風呂に入らせるが、何かと言うとロキが呼んでくるので、嫌が応にもロキの裸を何度も見る羽目になってしまった。
そう言った日々が、そろそろ一週間経とうとしているのである。
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