第8章 朝ご飯の卵焼き
ローが出張先でのオペを終え空港に戻ってきたのは、日曜日の夕方だった。
ローに任されたのは移動もままならないほど重症の患者のオペ。どれもうまくいったが、いつもと違う環境での生活に疲労困憊だ。
オペだけならまだよかったのに、勉強会や接待で休む暇がなかったのも原因だろう。
こんな日は美味い和食でも食べて癒されたいと思ってしまう。
そう、あいつの弁当とか。
すぐアンのことを連想してしまうのは、毎日レイジュがアンの弁当の写真を送りつけてきたからだ。
出張中、ゆっくりスマホを見れるのはいつも眠りにつく前だった。
まるで嫌味のようにデカデカと送られてきた弁当の写真。イライラして余計に眠れなかった。
最初の日はたまごサンドとミネストローネ。
(おれが好きなもんを嫌いなもんで挟むんじゃねぇ。当てつけかよ……)
翌日はあじの混ぜご飯とだし巻き弁当。
(おれがいないときにだし巻き卵作るな)
そんな具合だったから、アンの弁当が恋しくてたまらない。
疲労で重い身体をひきずって、土産を持ってうつむいて歩く。
だから、あいつらとすれ違ったのも全く気がつかなかった。