第7章 弟の進路
休日のレイリー空手道場。
アンに何十回と吹っ飛ばされたルフィはそのまま床に大の字になって倒れ込んだ。
額の汗を拭い息切れしながら悔しそうに呟く。
「くっそー!何でこんなに強いんだよ……!」
同世代では負けなしのルフィでも、どうしても姉や従兄弟には敵わない。何度挑んでも結果は同じだ。
そんなルフィに構うことなく、アンは水分補給をする。息切れもしていないし、汗もすぐに引いた。
空手の稽古は久しぶりで、思いきり身体を動かすのは気持ちがいい。
筋トレは毎日欠かさないおかげか、アンの腹筋は割れているし体脂肪率は10%を切っている。それなのに出ている所はそのままで女性らしいラインは失われていない。
「今日もやられてるなぁ、ルフィ」
空手着を着て二人の前に現れたのは、この道場の主であるレイリーと妻のシャッキーだ。
「ねーちゃん、全然隙がないんだけど。勝つ方法教えてくれよ、レイリー」
「それは練習あるのみだな」
レイリーは穏やかに笑う。世界中の空手家を相手に生きてきた、強者の笑みだ。
自分では老兵だなんて言っているけど、かつては冥王とまで呼ばれていた。
彼のように強くなりたいと、ルフィはいう。
それでも夢と現実は天と地ほどの差があった。
「スタミナは十分なんだけどね。とりあえず柔軟性が足りないわ」
アンは倒れているルフィに近づくと、羽交い締めにして筋という筋を伸ばした。
「ぎゃぁぁぁ!!!」
「さぁ、もう一本する?それとも空手家の夢は諦める?」
「諦めるわけ、ねぇだろ!!」
ルフィはゼィゼィ言いながら立ち上がった。呆れ顔のアンに拳を放つが、軽くかわされて左脇腹に正確な蹴りが入る。
(…!!
ねーちゃん、無双……)
ルフィ、気絶。
その様子を見ながら、「仲が良いこと」とシャッキーはくすくす笑う。
「笑い事じゃないの、シャッキーさん。この子ったらたいして強くもないのに、夢ばかり見てどうするのかしら?」
「あら、父親に似たのね。仕方ないわ」