第12章 波乱の夏休み
地獄の一週間が始まった。唯一楽しみにしていたアンの弁当さえない日々。
時間が空いて久々にコンビニに行った。当然アンはおらず、故郷でもある沖縄に帰省中だとクザンが教えてくれた。
青い海で水着を着て無邪気に遊んでいる彼女の姿が目に浮かぶ。
今頃さぞかし弟達と楽しくビーチバレーなんかして過ごしているんだろう。
いや待てよ。
スタイル抜群のあの女がビキニなんか着て、ビーチをうろついてみろ。ナンパされ放題じゃねぇか。
その中でひと夏の恋の相手を見つけてたりしねぇよな。それが発展してまさか結婚なんてこと……。
「ロー?おい、ロー?」
妙な妄想に寒気がして、医局の仮眠室でふて寝していた。うつらうつらしているとノックの音とともに自分を呼ぶ声。
ドアを開けるとコラソンがいた。心配そうな顔をして。
「随分疲れてるな。大丈夫か?ロー、あのさ……」
「悪いな、コラさん。夕方から出張なんだ。もう少ししたら空港に行かなきゃならねぇ」
ローはコラソンの言葉を遮ると時間を確認しようとPHSを手に取る。
するとくれはやコラソン、ベポからの着信が何十件とあった。寝ている間、マナーモードにしていて全然気がつかなかった。
何事かとローはコラソンを仰ぎ見る。
「出張オペの患者さんなんだけど、急に高熱が出てオペが中止になったらしい。ローが飛行機に乗る前に急いで伝えなきゃって探してたんだ」
「そうか…。悪かったな。おれからもくれはに確認してみるよ」
とりあえずくれはに詫びを入れないと、後々面倒だ。
けれどコラソンの話にはまだ続きがあった。
「それでさロー、ここ1ヶ月ぐらいほぼ休みないだろ?ドルトン先生に休暇がもらえないか掛け合ってみたんだ。ドルトン先生も気にしてたみたいで二つ返事でもらえたよ。たった3日だけど。くれはには自分から伝えるから大丈夫だって」
「…本当か?」
もしそれが真実なら身体中から力が抜けるようだ。
「嘘じゃないぞ!おれもちょうど明日から夏休みだし。二人でゆっくりしよう!」
この時ばかりはドジっ子コラソンが頼もしく思えた。