第12章 波乱の夏休み
7月初め、シャンクスは無事に退院した。
7月7日までに退院したいというのが、本人たっての希望。理由は聞きそびれた。
退院したら一緒に暮らすとばかり思っていたあの親子は少し事情が違うらしい。
退院後は友人の家に身を寄せるのだと、シャンクスから聞いた。
元々かなり昼夜が逆転した生活をしているし、仕事上急な来客も多いから子ども達の邪魔になるんだと彼は苦笑した。
(そういうもんか?)
それでいいのだろうか、アンやあの弟は。
医局に戻るとくれはが待っていた。
「今回はお手柄だったねぇ、ロー」
「は?」
彼女からは珍しい賞賛の言葉。どうやら機嫌がすごくいいらしい。
「あのシャンクスとかいうジャーナリストのことさ。随分実績があって外務省やNPOからの信頼が厚いらしくてね。貴重な人材の命を救ってもらったと直々に大臣からお褒めの言葉をいただいたよ。
ついでに厚労省に掛け合わせて、承認待ちの治療をさっさと通すように言ってやった」
通りで機嫌がいいはずだ。近日中に承認が下りるんだろう。
「へぇ。そりゃ、こっちも何かもらわなきゃ割りに合わねぇな。休みとか……」
淡い期待を胸に願望を口にした。だって世間は夏休み。天職とはいえ今まで働き詰めだったのだから、少しはリフレッシュしたい。
しかしそんな甘い考えは次の瞬間砕け散る。
「何言ってんだい?休みなんてあげれるわけないだろうが!あんたにゃ山ほど出張オペや研修の依頼がきてるんだよ!」
ドンッ!
くれはは机に紙の束を放り投げた。全部出張や研修依頼の書類らしい。
(嘘だろ……)
ローは顔を引き攣らせる。散々働かせておいて、この鬼上司はまだ足りないというのだろうか。
「頼んだよ、ロー!もし倒れたらあたしがそこらかしこに注射ぶち込んでやるさ」
くれはの前だけでは倒れることはできないと決意した。