第10章 青い果実
その秘密は墓場まで持って行こうと三人で決めた。
誰にも言わない。おれとアンとサボの三人だけの秘密だからって。
手術が終わるのを待つ間、今にも泣き出しそうなアンの顔を見て否応なく思い出したんだ。
高3の夏、シャンクスが訪ねてきたときのこと。
あの夏、母親を亡くしたアンは食事も喉を通らなくて、夜も寝られなくて、どんどん憔悴していった。
ほとんどの時間を母親の骨壺の前で過ごし、座ったままよく船を漕いでいたっけ。
あの日もそんな風に過ごしていたら、シャンクスがやって来たんだ。ひどく慌てていて、何度もガープに謝っていた。
アンだってもう何もわからない子どもじゃなかった。
父親の仕事のことやすぐに帰ってこられる状況じゃないのはわかっていたはずだ。納得はしていないけど、理解はしている。そんな感じ。
ただそのときのアンは悲しみと寝不足でひどく混乱していた。おまけにあの遺言ーー。
"ごめんね、アン。
シャンクスにはどうしても自由に生きてもらいたいの。一緒に居られたあの時間は私にとって、毎日が奇跡みたいだったから"
そのせいでアンはシャンクスにすがりつくことができなくなった。本当は彼の胸に飛び込んで泣きたかったかもしれない。
それらのことが全部折り重なって、アンはシャンクスを突き放すような態度を取った。きっと本意ではなかったと思う。
あの後シャンクスがじじいと話しているとき、アンは納戸の中で泣いていたんだ。