第1章 冷たくて優しい
水の中にいるみたい
目の前がゆらゆら揺れてる
走って乱れた息を整えていると急にグイッと後ろから腕を引かれる
思わず瞬きをパチパチとすると溜まった涙がポロリと零れる
振り向かなくても分かる
少し息を乱して後ろにいるのは大好きな彼だと
「!」
「…なに?」
振り向かず腕を掴まれたまま答える
「…さっきは悪かった。マジで似合わねェと思って言ったわけじゃ…」
「私の事嫌いなら嫌いだって言ってよ!」
「…は?なに…」
そこで初めて彼の方を振り返る
目からはボタボタと重力に逆らうことなく涙が面白いように零れ落ちる
大輝くんが息を呑むようにして私を見ている
「…私は、さつきちゃんみたいに可愛くないけど…それでも少しは可愛いって…大事だって思ってくれてた?」
「……」
「…何で私と付き合ってくれたの?」
「……。」
「告白したとき俺もだなんて言ったの?…何も変わらないって…幼なじみとして付き合ってやってるからってこと?…」
「…ちがッ」
彼の青い瞳の奥が揺れているのが見える
口が悪いとよく言われるけど彼は基本的に優しくて繊細だ
きっと言葉を選ぼうと悩んでくれている
聞いておきながら答えを聞きたくなくて自分勝手な言葉で
「…やだもう…きらい…」
大輝くんの体がピクリ、と揺れる。
「大輝くんなんか…嫌い!!別れよ…今までゴメンね」
いつのまにか硬直したように動かなくなった大輝くん腕を振り払うようにして走り去る