• テキストサイズ

【文スト】Vanilla Fiction【江戸川乱歩】

第4章 夏






季節がまたひとつ巡り、夏になった。
成美と乱歩の関係も、また少し変化した。いわば、〝友だち以上恋人未満〟のような関係になったのだ。
喫茶店の外でも会うようになった。急な雨で相合傘もした。──ふとした触れ合いが増えた。
指の先が触れたり、同じものを覗き込んでいて顔を上げたら思いのほかお互いの距離が近かったり。そうした距離感の変化が、成美を高揚させ、落胆もさせた。



「あはは、おもしろい! まったく、乱歩さんはいつも楽しい人ですね!」
「そうだろ? 僕は楽しいものが大好きだからね!」



時には、こうして成美のバイト先の喫茶店で談笑したりもする。わざわざ乱歩が成美の休憩時間に合わせて来店し、成美が〝乱歩スペシャル〟と自分の分の珈琲を運んで休憩に入るのだ。休憩はたったの30分程度だが、成美はこの時間がたまらなく好きだった。



「なんだい成美ちゃん、その色男、やっぱり成美ちゃんの〝コレ〟なんじゃないかい」
「な──、なに言ってるんですか、親父さん! 私と乱歩さんはそのぅ、そういうアレじゃ……」



──まさか、まさか今それを訊かれるなんて。

親父さんは成美の異能力を知らない。今までだって、うまくやってきた。けれど、予想外の質問に狼狽し、いつものように嘘はつかずにかわすことが難しかった。

背中に冷たい汗を感じた。きっと赤くなっている頬に冷たい手のひらを押し当てる。頭を冷やさなければならない。でも、どうやって? わからない。いけない、このままでは何か大変なことを口走ってしまう。その前に、この場を逃げ出さなければ、でも、でも。ああ──



──泣きそう。



「……親父さん。成美は〝嘘が苦手〟なんだよ。だから、あんまり訊かないでやって」
「! なんだい、そういうことか」
「そこは〝あえて〟何も言わないでおくよ。──今はまだ、ね!」



──待って、どういうことなの。ちょっと、誰か、乱歩さん、説明して──

それは成美のキャパシティを超えるだけの出来事で、頭の中がぐちゃぐちゃになったようだった。それから寝るまでの間の記憶があまりない。



──福沢さん、私を受け入れてくれる人は、私を振り回す人で合っていますか?



/ 33ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp